尹大統領夫人の前に広がる三本の茨の道【コラム】
パク・チャンス大記者
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の再議要求で国会に戻った「(大統領夫人)キム・ゴンヒ特検法」はついに否決された。大統領は拒否権という盾で妻を守ることに成功したかのようにみえる。しかし、状況は以前よりもはるかに危うくなった。与党「国民の力」の議員のうち4人が離脱し、特検法に賛成または棄権したことは、与党内部の不満が臨界点に達している証拠だ。「これまでは不満があっても我慢してきたが、これからは行動で示すという意味」だと、ある国会議員は語った。党内では「親ハン・ドンフン(代表)派が『キム・ゴンヒの謝罪』に向けて圧力を加えるため、4人に反対または無効票を投じさせた」という噂も流れている。 今やキム・ゴンヒ女史には三本の道が残されている。いずれも茨の道だ。一本目の道は、今のようにそのまま持ち堪えることだ。野党「共に民主党」がキム・ゴンヒ特検法を再び発議しても、夫の拒否権の盾に隠れて屈せず引き続き活動を続けるという意味だ。だが、直ちに与党内部で軋轢(あつれき)が生じるだろう。キム・ゴンヒ特検法の表決直後に、ハン・ドンフン代表が大規模な派閥会合を開いたことは、大統領夫妻に対する政治的圧力の表現だ。今回は離脱票が4人だが、再びキム・ゴンヒ特検法を再表決する状況になれば、その数字は可決線の8人を超えるかもしれないという脅しだ。 特検法の再議決に必要な数字(国会議席の2/3の200席)と大統領弾劾案の可決に必要な数字は同じだ。国民の力の所属議員の一部の賛成でキム・ゴンヒ特検が始まれば、「考えたくはないが、尹大統領弾劾の前奏曲になり得る」と与党の別の関係者は語った。 二本目の道は、キム女史が国民向けに謝罪をして、すべての活動を中止すると約束する道だ。与党多数が望む最も現実的な案だ。キム女史は、秋夕(旧暦8月15日の節句)前に国民に謝罪する案を検討したという。問題は、キム女史も、国民の力も、これで沸騰する世論を静められるのかについて確信が持てないという点だ。キム女史の総選挙公認介入疑惑で物議を醸したテレグラムのメッセージが端的な例だ。キム女史自身も、どれだけ多くの人と電話で話し、どれだけ多くのメッセージをやりとりしたのか、おそらくはっきり憶えていないだろう。国民に謝罪した後に新たな通話の録音やメッセージが暴露された場合、その時は手の施しようがなくなる。特検と司法処理の要求はさらに激しくなるだろう。 尹錫悦-キム・ゴンヒ夫妻とハン・ドンフン代表の政治的利害が鋭く交錯するのは、まさにこの地点だ。キム・ゴンヒ女史は自身が国民向け謝罪をすれば、その後は与党全体が明確に自分を守らなければならないと思っているだろう。だが、ハン代表側の考えは異なる。謝罪は政治的行為にすぎない。与党ではドイツモーターズ株価操作事件のように明確な容疑が浮上すれば、捜査を避けられないという意見が少なくない。2027年の大統領選挙まで考えれば、人事と公認への介入疑惑まで与党がすべて抱えていくことはできないという認識が広まっている。キム・ゴンヒ女史が謝罪をためらう理由も、このような気流をよく知っているためだろう。 三本目の道は、劇的な政治的賭けに出る道だ。尹大統領が自ら国民に謝罪し、妻と関連したすべての疑惑を解消するための徹底した捜査を検察に指示するのだ。似たような前例がある。1997年2月、金泳三(キム・ヨンサム)大統領は、息子のヒョンチョル氏が韓宝事件の黒幕という疑惑が広がると、国民に対する謝罪の記者会見を開き、「息子に対する徹底した捜査」を検察に指示した。参謀が書いた会見文の草案には「息子に過ちがあれば責任を負わせる」と書かれていた。だが、金大統領は自らそれを「司法的責任を負わせる」に修正した。 もちろん、このようなシナリオの実現可能性はゼロに近い。大統領夫妻の傲慢と勘違いのためだ。金泳三大統領と金大中大統領は在任中に息子が拘束される苛酷な試練を受けたが、国民世論を優先した。キム・ゴンヒ女史は違う。自分が尹錫悦政権を支える大黒柱だと思っている。自分が崩壊すれば、政権が崩壊すると考えている。大統領夫人には多くの情報が集まる。その情報がごく一部のもので、偏っており、民意とかけ離れているという考えには及ばない。だからこそいきなり麻浦大橋に出て民政視察をするような姿を見せ、大統領の外遊には必ずついて行っている。 三本の道のどれを選んでも、その果てにキム女史が安息を手に入れる場所はない。一本目はもちろん、二本目も回り道ながら特検へとつながる。三本目の道は、特検ではなく検察のフォトラインに立たなければならないというくらいの違いだ。家族の不正や権力乱用のスキャンダルがなかった歴代大統領はほぼいない。しかし、今のように政権没落の中心動力となるのは初めてだ。「キム・ゴンヒ政権」という言葉が的外れとは思えない理由だ。 パク・チャンス大記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )