夢の「月面生活」を可能にする「世界初の技術」を持つ、ある企業の挑戦
ものづくり立国。そんな言葉を聞かなくなって久しい。日本の技術力は衰えてしまったのか。そんなことはない。失われた30年と呼ばれた時代でも地道に研鑽してきた企業がある。今、その努力が花開く。 【画像】新Vポイント、セブンやドトールで「7%還元」の衝撃
月面で水を電気分解
アポロ計画から半世紀以上が過ぎ、人類は再び月面着陸を目指す。 米国は'26年に有人の月探査を目指す「アルテミス計画」を進行中だ。中国も今月、無人の月面探査機を打ち上げた。米中双方が目指すのは、月面での基地建設であり、その月面基地を足がかりに、火星までの有人探査に乗り出そうとしている。 そのために必要不可欠な技術を、日本の企業が世界に先んじて開発していることはあまり知られていない。 それが、高砂熱学工業が世界で初めて開発した「月面用水電解装置」である。月面で水を水素と酸素に電気分解するための装置だ。
月面での水素と酸素生成に挑戦
同社の水素技術開発室担当部長の加藤敦史氏が解説する。 「月面にはかなりの確率で水が存在すると言われています。この水を現地調達して、水素と酸素に分解できれば、燃料として使える水素と呼吸に必要な酸素を月面で作れることになります。月面での生活や研究・開発の基幹的な装置になると期待されています」 ただし、装置の開発はそう簡単ではない。水の電気分解装置は古くから存在するものではある。しかし、それを月面で動かすとなると、話が変わってくる。 「地球で水の電気分解が簡単にできるのは、重力があるからです。その装置を、重力が6分の1の月面で制御しようとすると簡単にいくとは限りません。 具体的には気体と液体を分離する『気液分離』が地球上と同じようにはいかない。簡単に言うと、気体が地球上のように上昇せず、月面では液体と気体が混ざった状態になりえます。これを切り離す技術が今回の装置の根幹の技術でして、企業秘密で詳しくは言えませんが、これまで会社が培ってきた空調技術が基礎となっています。この装置は、ispace社が今年の冬に打ち上げを予定しているランダー(月着陸船)に搭載予定です。月面に着陸した後、世界初の月面での水素と酸素生成に挑戦します」(加藤氏) 【ものづくり・ニッポンの復活】(2)『iPhone にも活用「世界でもっとも平坦な製品」を作る日本のものづくり企業』ヘ続く 「週刊現代」2024年5月18・25日合併号より
週刊現代(講談社)