愛犬10年物語(6)老夫婦と老プードルでアメリカ横断 文豪の旅たどる
犬は人類の最古にして最高の仲間だと言われるが、家庭犬の存在は比較的新しい。我が国で、庭先に繋がれた番犬や猟犬に代わって、家族の一員として家の中で人と同じように暮らす犬が当たり前になったのは、ここ10年余りのことだ。ターニングポイントとなったのは、2000年代のペットブームであろう。そこから現在に至る『愛犬10年物語』。「流行」を「常識」に変えたそれぞれの家族の10年を、連載形式で追う。 【写真】愛犬10年物語(5)海外赴任の悲劇後に出会った終のパートナー
文豪スタインベックと逆のルートで
ジョン・スタインベックの『チャーリーとの旅』というエッセイがある。『怒りの葡萄』『エデンの東』などで知られるノーベル賞作家の犬連れアメリカ横断記だ。相棒の老スタンダード・プードル、チャーリー(オス・10歳)との旅を通じて、1960年当時の「現代のアメリカ」を作家らしい深い観察眼で捉えている。
スタインベックは、「どこかへ行きたい」という人間の本能に従い、また、アメリカ人作家としての責任感からか、晩年に「アメリカ」を見直す旅に出た。一方、太平洋を隔てた島国に暮らす我々日本人にとっても、往年のクイズ番組ではないが、広大なアメリカ大陸を横断する旅は究極のロマンである。 実際に、チャーリーと同じ10歳のスタンダード・プードルを連れてアメリカ横断旅行をした日本人夫婦がいる。小川丈三さん(73)と範子さん(72)は、スタンダード・プードルのダンディ(オス・10歳)とトイ・プードルのミミ(メス・4歳)と共に、西海岸のカルフォルニア州サンタモニカから東海岸のニューヨーク・マンハッタンまで車で横断した。東から西へ逆のルートを辿ったスタインベックの旅から半世紀余り。2017年9月7日から10月25日にかけてのことだった。
ペットOKの宿を20泊分予約して臨む
スタインベックは、キャンピングカーに改造した特注の大型ピックアップトラック、愛称「ロシナンテ号」で、行き当たりばったりの車中泊を中心に、時にはモーテルやホテルに泊まりながら旅をした。一方の小川夫妻の移動手段は、レンタカーのトヨタのワンボックス。ダンディと自分たちの年齢も考えて、体力的な負担や安全面でリスクがある車中泊は考えず、20泊の全てをモーテルなどの宿で寝泊まりした。