妹尾和夫 蟹江敬三さんとのドラマ共演で力んだ思い出
人気お笑い番組「お笑いスター誕生!!」で5週勝ち抜きの「銀賞」を獲り、その後は東京を拠点に活動していた妹尾和夫率いる「コント・パロディフライ」は、メンバーで後輩の神谷光明とペコの結婚を機に解散に至った。妹尾はその後も大阪を拠点に、俳優活動を続けていた。 妹尾和夫 横山やすしさんに言われた「おまえらは底の底じゃ」
学生時代に魅せられた演劇の感動よみがえる
そんな妹尾にとって、忘れられない仕事が入った。それは「東芝日曜劇場」のテレビドラマで、タイトルは「いつかライオンの夢を」。この台本を見て全身が震えるくらいゾクっとした。なんと、主演は俳優の蟹江敬三さんだったのだ。 妹尾にとって、蟹江さんは忘れられない存在だ。先述の通り、妹尾が日本大学入学後「いっぺん経験したろ」と演劇部に入部。先輩のチケットを取ったついでにたまたま観た劇団現代人劇場の「想い出の日本一萬年」に魅せられ、演劇を本気で始めたという経緯がある。 この舞台で演出をしていた蜷川幸雄さん、そして出演者の1人だった蟹江さんの演技に衝撃を受けた印象は今も残っている。「あの蟹江さんとご一緒できるなんて……」。妹尾の胸の高鳴りは止まらなかった。しかも、妹尾は蟹江さんの直属の部下役だったのだ。 ドラマの内容は、東京の会社に勤めていた蟹江さん演じる会社員が仕事でミスを犯し、大阪支社へ転勤となり妻(加賀まりこさん)をおいて単身赴任。大阪支社に出勤した蟹江さんを唯一温かく迎えてくれる同僚の女性社員を演じるのは国生さゆりさん。妹尾は「思い切り羽を伸ばせば」と蟹江さん演じる上司をけしかける役どころだった。
思いがけない初顔合わせ、呼吸ができなくなるほど緊張
撮影は午後5時からで、テレビ局に集合してタクシーで撮影現場へ向かうことになっていた。「このタクシーで移動した先には蟹江さんがいる」。そう思いウキウキ気分で車に乗り込むと、蟹江さんが座っていた。「えっ、一緒なの?」突然の顔合わせに妹尾は言葉を失い、呼吸ができなくなるほど緊張してしまっていた。 前の席には運転手と助監督。後部座席に蟹江さんと妹尾が座っていた。「蟹江さんとしゃべりたい。けど、緊張しすぎてなにをしゃべればいいかわからない」。そこで、妹尾は「タバコを吸ってもよろしいでしょうか」と声をかけてみた。「はい、どうぞ」と蟹江さんが答えたその時、妹尾は思い切って「実は大学時代、蟹江さんと蜷川さんがやっておられた芝居を観て、(自分も)本気で芝居をやるようになったんです」と話した。 すると蟹江さんは「えっ? 観たの? 観たんだ?」と答えた。そして「あれを観たって人は奇特な人だよ。日本に1000人もいないと思うよ。へぇー、観たの、へぇー、観てたんだ」と驚きの表情を浮かべていた。