勝敗を分ける250万のムスリム票の行方、激戦州ミシガンには「8万2000人以上のレバノン系米国人」
緑の党のスタインに流れる
ハリスの「発言」というのは、おそらく先のテレビ討論会で「ムスリムの有権者が抱く懸念にどう答えるか」と問われた際にハリスが発した言葉だろう。 あのとき彼女は、10月7日の奇襲を受けたイスラエルには自衛の権利があるとしつつも、「あまりに多くの罪なきパレスチナ人が殺されている」と言い、さらに「この戦争は終わらせなければならない」とし、停戦と2国家共存の実現に全力で取り組むと語っていた。 しかしムスリム公共問題協議会のハリス・タリンに言わせると、今は「ガザ地区とレバノンから届く恐怖の写真や映像」がハリスの票を奪い、それが緑の党のスタインに流れている。 勝ち目はなくても、スタインには明確な主張があるからだ。「なにしろ大接戦だから、どの激戦州でもムスリム有権者の奪い合いになる。ムスリム票の出方が結果を左右する一因になるのは間違いない」 米イスラム関係評議会も先に、レバノンでヒズボラの戦闘員を標的とする攻撃を続けるイスラエルへの武器輸出を止めるよう、バイデン政権に改めて要求している。 一方、共和党ユダヤ人連合のサム・マークスティーンはユダヤ系の票の出方も同じくらい重要だと言い、民主党はなりふり構わず、ムスリムにもユダヤ教徒にも取り入ろうとしていると批判した。「イスラエル支持の一本やりでは困ったことになるのが分かっている」から「支持を明言できない」という見立てだ。
ヘイトクライムの67%はユダヤ人に
マークスティーンによれば、多くのユダヤ系有権者は米国内での反ユダヤ感情の高まりに懸念を強めている。 FBIの最近のデータによると、23年には全米で報告されたヘイトクライムが過去最高の1万1862件に上った。ユダヤ人への攻撃は前年比で63%も増え、ムスリムへの攻撃も49%ほど増えた。 「ユダヤ人はアメリカの総人口のわずか2%にすぎないが、FBIの集計によれば、宗教的な動機に基づくヘイトクライムの67%はユダヤ人に向けられている」とマークスティーンは指摘し、身近な問題だからこそ重要だと語った。 【一枚岩ではないユダヤ人】 今度の選挙で自分が負けたら、それはユダヤ人のせいだ──そう言わんばかりのトランプの態度を、由々しき問題と見る向きもある。 例えばペンシルベニア州ピッツバーグでユダヤ人団体の代表を務めるジェレミー・カザズは、トランプがユダヤ人有権者をスケープゴートに仕立てるつもりだと非難した。 その一方、彼はハリスを絶賛する。反ユダヤの風潮と本気で戦っているし、なにしろ夫のダグラス・エムホフはユダヤ人だ。何年か前に反ユダヤ主義者に襲撃され、11人の死者を出したピッツバーグのシナゴーグ(ユダヤ教会堂)の再建に向けた起工式にも、彼はきちんと顔を出していた。