なぜオリンピックは予算超過してしまうのか?ジェフ・ベゾスから学ぶ「コストの捉え方」
スポーツファンがチームの決定や結果に対してとやかく言うのが好きなように、企業の分析をするのが好きな人も存在します。 競争相手に対してどのように立ち回っているのか、利益率はどのくらいかなど、他人の不幸を喜ぶような意味ではなく、純粋な興味から楽しんでいるのです。 それゆえ、特に興味深いのが今年開催されるパリオリンピックです。 というのも、『Environment and Planning』誌に掲載されたオックスフォード大学の研究によると、1960年から2016年までに開催された30回の夏季、冬季オリンピックの開催経費が、平均で172%予算を超過していることが明らかになったからです。 覚えているでしょうか。 1976年のモントリオールオリンピックは予算を720%超過し、施設建設のために発行された借金の返済に30年かかりました。 また、2004年のアテネオリンピックの赤字はギリシャ経済を悪化させる一因とも言われています。 なぜ国を傾かせるほどまでに予算が超過してしまうのか。今回はAmazon創業者のジェフ・ベゾスの「双方向のドア」の考え方からわかる、その原因をご紹介します。
コストが膨らむ6つの要因
オックスフォード大学の研究者たちは、オリンピックを行なう際にコストが膨らむ6つの主な要因を特定しており、これらは起業家にとって興味深いものとなっています。 オリンピックを行なう際にコストが膨らむ6つの要因 不可逆性 確定した期限 白紙小切手症候群 緊密な結びつき 長い計画期間 永遠の初心者症候群 上記のうち、いくつかは明白です。期限を守るためには、より多くの支出が必要となることが多々あります。 たとえば、会場が7月26日までに準備完了しなければならないのにスケジュールに遅れが生じている場合、追加の資金を投入しなければならないケースもあるでしょう。 不可逆性についても同様です。ベゾス流の「双方向のドア」の決定とは異なり、オリンピックの開催は取り消すことのできない決定です。 6つの要因の中でも、注目すべきは「白紙小切手症候群」です。研究者たちはこのように書いています。 すべてのオリンピック競技は例外なく予算超過しています。これは注意深く考慮する価値があります。 予算は通常、設備投資にかかる最大値として設定されます。しかしオリンピックでは、予算はむしろ最低ラインであり、常に予算超過しているのです。 さらに、ほかの巨大プロジェクト以上に、オリンピックの予算は開催都市と開催国政府が大会費用の予算超過分を保証するという、法的義務とともに設定されます。 データによると、この予算超過に対する保証は金額欄が空白の小切手を書くことに等しく、見積もられている金額よりも高くなることが確実です。 実際には、入札予算は予算というよりも頭金という意味合いが大きく、超過分が空白の小切手に書かれることになります。 これを起業家の視点から考えてみてください。 あなたは事業を立ち上げることを決心して、予算を立てるとしましょう。しかし、借りた土地での建設費用や供給コストが予想以上に高額になることが判明しました。 「ホフスタッターの法則」の問題も顕在化し、実際のローンチ日が当初の予想日よりも数カ月遅れることに…。本来であれば、相殺する収益がないまま、資金を費やすことになります。 このような不運が重なるとあなたが立てた予算は、研究者らが主張していたように頭金としての役割が大きくなってしまいます。 多くの起業家にとって、事業を立ち上げる決断は金額が空白の小切手を書くようなものかもしれません。 特に、すでに多額の投資をしてしまったものに対して最後まで続けようとする「サンクコスト効果」のような経験をする場合には、特に当てはまってしまうでしょう。 実はこれらすべてが、ジェフ・ベゾスの話につながるのです。