スポーツ界が自ら「稼げる」業界になるために【松田丈志の手ぶらでは帰さない!~日本スポーツ<健康経営>論~ 第10回】
前回に続き、世界のスポーツくじ・スポーツベッティング市場拡大の流れから、日本のスポーツ界が今後どうあるべきかを考えていきたいと思います。 【写真】スポーツくじより還元率の高い競馬 日本にすでにあるスポーツくじを大きく拡大することで、スポーツ界の価値を最大化すると共に大きな財源を生み出し、これが次世代の育成やトップチームの強化・地域振興に使えるようになると私は考えています。スポーツ界が自ら「稼げる」業界になっていけば、スポーツを「する、みる、支える」そのすべてにもっと人材が集まる流れが生まれ、業界として発展できる可能性があります。 では具体的に、日本でスポーツくじの拡大を進めていくにはどうしたら良いのでしょうか。単純な市場規模では日本は世界から遅れをとっていますので、世界各国の事例を参考にしながら現在の日本に最適なルールづくりをする、ということがまず考えられます。そしてこのルール作りは、すでに存在する違法市場との闘いでもあると考えています。違法市場にお金が流れている現状、そしてアスリートやスポーツチームの権利が侵害されている現状に対して、ルールを作って適正に運営し、合法市場の魅力を高めながら市場を拡大していくことが必要となります。 そのためには、まずは諸外国の事例を参考にする必要がありますが、私が注目しているのは台湾のスポーツくじの制度です。私は、台湾のスポーツくじの制度には、参考になるいくつかのポイントがあると考えています 。 まず、民間企業に対するライセンス制です。諸外国のスポーツくじ・スポーツベッティングの制度では、国や国の機関が独占していた事業運営を民間事業者に移行することが進んでいます。台湾においても、台湾スポーツくじ所管官庁である教育部から民間企業にライセンスが付与されています。政府が設立した組織の場合は、人的リソースの問題等スポーツくじ運営の十分な体制を確保することができないなどの理由から、民間事業者にライセンスが付与されているようです。 次に、還元率もポイントになると考えられます。公営ギャンブルでは、収益の一部が公共事業やスポーツ振興に充てられるため、還元率の設定は社会的意義と収益のバランスを考慮してなされます。日本の公営ギャンブルや宝くじの還元率は、競馬が約75%、宝くじが約45%、スポーツくじが約50%となっています。 台湾では法令上、還元率が78%以下と定められています。台湾のスポーツくじオペレーターによれば、台湾違法市場の拡大に対抗する観点からは払戻率78%が限界値であり、78%を下回る払戻率では商品として魅力が低下し、現在の市場を維持できなくなると考えているとのことですが、日本においても今後、違法市場との闘いを見据える上では、還元率に関する法改正も議論していく必要があるでしょう。 このように、台湾のスポーツくじの制度は今後の日本のスポーツくじの拡大を進める上で大変参考になると考えていますが、加えて私は、運営者側の収益から「公共事業やスポーツ振興へ使われる割合」も重要なポイントだと考えています。パリオリンピックでは、主催権が認められたパリ五輪組織委員会に対して収益の一定割合の直接還元があったといわれています。アメリカでも、NBAやMLBでは直接還元がなされているといわれています。一旦税金として徴収され、その後政府によってスポーツ振興に使われる場合もありますが、この場合は政府の方針にも左右されますから、継続的なスポーツ振興を実現するためには、フランスのようにスポーツチームや団体の主催権を確立し、直接還元するシステムを作ることも一案であると考えます。