前週は孫と動物園でリフレッシュ ジャンボイズムを継承する東聡が60歳以上の日本一に輝く
<日本プロゴルフグランドシニア選手権 最終日◇28日◇宝塚クラシックゴルフ倶楽部(兵庫県)◇6403ヤード・パー71> 【写真】妻の美和子さんと優勝カップを掲げてニッコリ 60歳以上の日本一を決める戦い、「日本プロゴルフグランドシニア選手権~ユニテックスHDカップ~」。和歌山県の南紀白浜ゴルフ倶楽部で行われた昨年大会は、トータル7アンダーで並んだ東聡と久保勝美のプレーオフとなり、2ホール目で10メートルを沈めてバーディを奪った久保に軍配が上がった。 そして、兵庫県の宝塚クラシックゴルフ倶楽部に舞台が移った今年、東は並々ならぬ決意を持って会場に乗り込んできた。「去年はプレーオフで負けたのがすごい悔しくてね。宝塚に来るまでそれが頭によぎっていた。日本グランドに出る以上は獲りたいなと思っていた」と語る。 今大会の初日は「ティショットの調子が悪い」と言いながらも、6バーディ・2ボギーの「67」でまとめ、4アンダーで単独首位発進。そして、最終日も1番と5番のパー5でバーディを奪って勢いに乗ると、一度も並ばれることなく、連日の「67」でトータル8アンダーまで伸ばして完全優勝を遂げ、昨年の悔しい思いを見事に晴らした。最終ホールで劇的なショットイン・イーグルを決めた水巻善典が1打差のトータル7アンダーで2位。グランドルーキーの田村尚之がトータル6アンダー・3位に入った。 「“日本”というのは響きがいい。若いときは日本マッチプレーしか勝っていないからね。公式戦はちょっと違う。年間1試合しかないからオリンピックみたいなもの。今年に限っては狙って勝てた感じ。良かったね」。1991年のレギュラーツアー「日本プロゴルフマッチプレー選手権」以来となる33年ぶりの日本タイトル獲得を、そう素直に喜ぶ。 優勝するために「意外と今までそういうゴルフをしていなかった」とマネジメントを修正した。「このコースはピンまで打って横につくと近くても難しい。ボギーを打っているホールは、アプローチでピンに届かせて曲がるラインを打っていた。1メートルでも2メートルでも、ピン手前の真っすぐのラインにって考えていた」。アプローチではOKの距離に寄せるのではなく、あえて手前に止める戦略で日本タイトルを引き寄せた。 1983年にプロになるとすぐにジャンボ軍団入り。これまでにレギュラーツアーで7勝、シニアツアーで2勝を積み上げた。勝つたびに頭に思い浮かぶのは師匠の姿だった。 「ゴルフのプロの第一人者が尾崎将司でしょうね。ゴルフのプロだけでなく、スポーツのプロという感じがする。ああならないと勝てないというのを何十年も見てきたし、少しでも近づけるようにと思いながら毎年(ジャンボ軍団の)キャンプをやっていた。どの試合に勝ってもジャンボさんのおかげだと感じている」 師匠は前人未踏のレギュラーツアー通算94勝を挙げて、賞金王には12度輝いている。「足元にも及ばないんだけど、あの人のおかげでプロとしての生活ができている」。優勝しても納得できなければその日に練習する、食事中でもひらめくとクラブを握って素振りする。ジャンボのゴルフに対してストイックに向き合う姿勢は、63歳となった東の中にいまだ息づいている。 また、試合中は真剣な顔でクールに見えるが、孫の話になると一気に表情が緩む。息子には小学校2年生の女の子と4歳の男の子、娘には1歳半の女の子がいる。今週、娘から送られてきた動画には、1歳半の孫がテレビの中にいる東に向かって『じいじ、じいじ』と呼びかけるかわいい姿があった。「いつもは眼鏡をかけているから、眼鏡をかけていない顔を知らないんだよ。何となくは分かるのかもしれない」。そう話す顔はデレデレだ。 「頻繁には会えないけど、たまたま(娘と孫が)先週うちに来て会っていました。それもいいリフレッシュになっていると思います。やっぱり動物園に行ってまでゴルフのことを考えないからね」。それを近くで聞いていた妻の美和子さんは大爆笑。試合中の“じいじ”と、孫と一緒に遊ぶ“じいじ”はまったくの別人らしい。 そんな美和子さんの前で勝てたことも東には意味がある。「去年はキャディをやって悔しい思いをしているからね。優勝をみせられて良かったと思います」。美和子さんはいつも試合に帯同し夫を支えている。そんな愛妻に対し、「普段通りの生活を試合に来てもしている感じかな。家にいる感じが試合でも。それも良い結果になっているのかな」と、少し照れながら感謝する。 昨年のシニアツアーでは開幕戦の「金秀シニア」に勝って、賞金ランキング20位で終えた。今季はここまで7戦を戦ってトップ10は1度だけ。賞金ランキング39位(247万9150円)と苦戦している。シーズンは残り6試合で、来季の出場権を得られるのは同30位まで。次週も日本タイトルがかかる「日本プロシニア」が行われ、その優勝賞金は1000万円と高額だ。 「日本プロシニアは自分なりにチャレンジして一つでも上に行けるようにやりますよ。去年優勝して今年もしたいけど、まずシードを獲りたい。全力で(賞金ランキング)30位以内を目標にやるだけです」。妻とのツアー転戦生活を1年でも長く続けるために、この優勝で勢いに乗っていきたい。