ロービームの夜間運転は高リスク 超ハイテクヘッドライトで事故減らせるか
ここ数年、ヘッドライトの進歩が著しい。例えば対向車がまぶしくない様に部分的に光をマスキングしながらハイビームを維持したりできる機構、アダプティブヘッドライトがどんどん取り入れられている。 自動車メーカーの主張によれば、これが夜間の交通安全に大きく寄与するというのだ。本当だろうか? 自動車メーカーの言うことを全部信じて原稿は書けないので、まずは裏取りのために公的機関の調査結果を元に調べてみた。
死亡事故に至るリスクは夜の方が高い
内閣府の「平成27年版交通安全白書」によれば、平成26年の交通事故件数は57万842件。内訳をみると、昼間の41万4458件に対して夜間が15万6384人で、夜間の事故が占める割合は27.3%である。
この結果をみると、むしろ思ったより夜の事故は多くない。メーカーがことさらに夜の事故のことを言うのだから、もっと夜の事故が多いと思ったがそうでもないなというのが率直な感想だ。ただし、昼と夜では交通量が違うので、このデータだけでは一概に昼夜の危険性の差については言えない。本当は昼夜の交通量比較があればいいのだが、それはエリア依存性が高いデータになりそうなので、内閣府の調査エリアと同じ場所でないとあまり意味をなさないだろう。 他に昼夜の事故についての関係性を示すデータはないのかと思って各項目をみてみると、死亡事故のデータが目に付いた。昼間の1994件に対して夜間は2019件、夜の死亡事故は50.3%だ。昼も夜も危険性が同じなら、このデータは前述した事故発生件数比の27.3%近辺になるはずである。それが50.3%まで上昇するという点を見ると、夜間の事故は死亡事故に至るリスクが昼間より明確に高いということは言えるだろう。
ロービムでは障害物を発見できない
この調査には夜間の事故が深刻化する理由の考察はない。ちょっとメーカーに誘導されている気がしないでもないが、夜間という状況を考えれば、視認性が大きく関係してくるであろうことは確かに想像できる。例えば、ヘッドライトの照射能力限界によって危険の感知が遅れ、事故が起きた時の速度が高いということはありそうである。 そう当たりをつけて各種の資料を調べてみたら平成25年にJAFが行った実験に行き当たった。JAFでは運転歴20年以上の30~50代の男女5名のモニターを選出し、テストコースの任意の場所に障害物を設置して、ブレーキのみで停止できるかどうかのテストを行った。 ・JAFチャンネル 時速80キロでは5人全員が障害物手前で余裕を持って止まることができたが、ハイビームとロービームでその停止距離に大きな差が出た。そして100キロになるとほとんどのドライバーが障害物を回避できなかったのである。 ■ロービム時速80km 平均5.2メートル手前 ■ハイビーム時速80km 平均82メートル手前 ■ロービーム時速100km 平均8.8メートル超過 JAFではこの結果を踏まえて「対向車や先行車、歩行者がない場合にはライトを積極的にハイビームにする。ハイビーム・ロービームに限らず、照射範囲内で止まれる速度を心がけることが大切である」とまとめている。5人というテストの母数の少なさはちょっと気になるものの、結果の差が大きいことを見ると母数が増えても大きく結果がブレるようなことにはならない感じもする。 実は、道路運送車両法の定めでは、ライトの点灯時はハイビームが基本で、周囲に配慮が必要な場合のみロービームに切り替えることになっている。 そう言われても、われわれが夜間運転する時、ハイビームを使うことが果たしてあるだろうか? もちろん環境によるだろうが、都内在住の筆者は日常の運転においてハイビームを使うことはほぼない。それはJAFの言うように、対向車や先行車、歩行者が常に周辺にいるからである。 実験結果が指し示すのは、使える場面ではハイビームを積極的に使うことによって夜間の安全性は大きく向上するということになるだろう。むしろ、ロービームだとリスクの高い状態で運転していることになると言った方が正確かもしれない。 しかし、それをドライバーの努力だけに求めて、状況が改善するとも思えないのである。モラル依存型のソリューションはだいたいスローガンに終わる。だから、このハイビームとロービームの切り替えを自動で制御するようなハードウェア構築をしないと現実を変えるほどのソリューションにはならない。そう考えるとアダプティブヘッドライトの採用が拡大していることが構図的に腑に落ちた。