建築のストーリーテラー、 イワン・バーンの撮る写真の世界。
独自のテーマで世界を撮り続ける。
現在も建築家からの依頼で世界中を飛び回るバーンだが、一方で独自のプロジェクトをいくつも進めている。対象になる建物、地域はさまざまだ。ベネズエラでは、建築主の破綻により建設途中で止まってしまった45階建ての高層ビルに違法で住みだしてしまった人々の暮らしを、フィリピンではホームレスの人々が墓地に住む現状を写し出した。
また、イエール大学建築学部のプロジェクトとして参加したのは、メキシコとアメリカの国境地帯のリサーチだ。ドナルド・トランプが大統領だった時代、国境に高いフェンスが次々に建てられていた。のどかに見えるビーチにまでフェンスが続く現実がそこにはある。
バーンが描きたいのは、こうした人々の貧しさではない。どんなに困難な状況にあっても、環境に適応して逞しく生きていく人々の暮らしを、尊敬の念を持って彼は撮影している。行く場所、行く場所、忙しさの中でも時間をとって、知り合いからの伝手を辿って現地の人々とコミュニケーションをとった上で、撮影に臨むという。 ル・コルビュジエが都市計画を行い、多くの建物の設計をしたインドのチャンディガールやオスカー・ニーマイヤーの公共建築が数多く残るブラジルの計画都市ブラジリアでは、現在の姿を写し出している。共にユネスコの世界遺産に認定されているが、その一角で涼をとる人、写真を撮る人……。彼らの暮らしを含めた全てが建築の一つの形であり、写真は建築を保存する一つの方法であるという確信を持っているのだ。
そして今、力を入れているプロジェクトの一つが、近現代に建てられた建造物ではなく、伝統的な住居や住環境をリサーチするプロジェクトだ。たとえばインドの「階段井戸」やエチオピアの「岩窟教会群」など。 西アフリカのブルキナファソでは、同国出身でプリツカー賞を2022年に受賞した建築家フランシス・ケレと共に、身近にある素材で建てられた伝統的家屋に住む人々の暮らしに焦点を当てている。これらのプロジェクトの多くは本として発表しており、建物という軸を通し、言葉だけでは伝わりにくい遠く離れた地に住む人々、その一人一人の生活を雄弁に物語る。