建築のストーリーテラー、 イワン・バーンの撮る写真の世界。
建築の背景にストーリーを見つける。
「建築がいいかどうかは関係ありません。その場所の背景にストーリーがあるかないかが私にとっては大切なのです」(イワン・バーン) そうバーンが言うように、彼の写真にはそこに写っているものだけではなく、その奥に見る者の想像を膨らませる空気感がある。いわゆる建築写真はより正確に建築物を撮ることに重きをおき、垂直・水平を合わせてカッチリ仕上げるのに対し、バーンの写真はなんとも新鮮だったに違いない。コールハース、ヘルツォーク&ド・ムーロンというトップアーキテクトがこぞって依頼したこともあり、建築家たちの間でバーンの名が知れ渡り、世界中の名だたる建築家たちから作品撮影の依頼が殺到するようになるまで、それほど時間はかからなかった。 余談になるが、有名建築家の設計したある企業の自社ビルが竣工する際に、5、6人の写真家に広報用写真の撮影を依頼したことがある。1週間写真家たちは滞在し、好きなように撮影していいという話だった。その中の1人がバーンだったのだが、撮影が終わって、選ばれた写真がほぼ彼のものだけだったという事実を目の当たりにしたことがある。やはり彼の選ぶアングルは特別で、撮る写真は対象となる建築物の本質をついているのだろう。
そうした撮影でも、彼はできるだけ人を入れ込んだショットを撮っている。また、バーンは当該の建物だけでなく、その周りの建物や交通など周囲の環境と共に写す。電信柱や電線、看板が入ることもあるだろう。天気に恵まれないこともある。それが絵的には美しくなくても、ありのままを写す。少なくない建築写真が、建物のみを写し、時には余計なものをフォトショップで消してしまうのとは実に対照的だ。 彼はできるだけ空から写すことでも知られる。ドローンでの撮影が当たり前となった今でも、彼は自分自身が空から実際に見て撮ることをやめない。広い街の中でその建物はどのように存在しているのか、なぜそれは他の場所ではなくここにあるのか、それを確かめたいのだ。