いまでこそ4ドアが普通にあるポルシェだが最初は超極秘プロジェクトだった! 昭和の最後に開発された「ポルシェ989」とは
一度凍結するもパナメーラとして結実
さて、ラガーイがデザインしたクレイモデルを見ると、989が長らく秘密にされてきた理由も察しがつきます。ご覧のとおり、のちのパナメリカーナや996、あるいはボクスターのそっくりさん、というか元祖、オリジナルと呼ぶにふさわしい(笑)。つまり、生産が決定していた911の後継モデルや、ポルシェ起死回生の隠し玉をこのタイミングで公開するバカはいなかったということ。 1991年には試作実験車が走れる段階にあったとされていますが、首脳部は996やボクスターの開発を先行させるために989プロジェクトをいったん凍結させる決定を下しました。これも無理のないところで、経営が傾きかけていたポルシェにとって4ドアモデルはあまりにも無謀な挑戦に思えたに違いありません。 とはいえ、この決定に失望したのか、ベッツとラガーイはポルシェを辞めてしまいました。これまた、プロジェクトリーダーを失った989が誰にも思い出されることなく金庫に納められてしまった理由のひとつといえるでしょう。 ですが、やっぱり989情報はリークしてしまい、1990年代末にはマスコミが写真を発表し、2000年代に入ると博物館に飾られるまでになりました。いうまでもなく、996や初代ボクスターが旧型となったタイミングであり、2009年に発表となるパナメーラのイントロダクション、「ポルシェから4ドアFRモデル出るぞ」というあえての出品と考えていいでしょう。 いずれにしろ、989は世に出ることなく終わっていますが、このプロジェクトが動き出した時点で、ポルシェは2ドアのグランドツアラー専門メーカーを卒業していたといって差しつかえありません。さすがのポルシェといえども、911だけで食っていけるほど自動車業界は甘くなかった、そう考えるといくらか寂しい気もします。
石橋 寛