久保建英が“レアルデビュー戦”でもぶれなかった原点とは?
2017年11月1日にはプロ契約を結び、翌年2月に静岡県内で開催されたJリーグ新人研修に出席した久保は、Jリーガーとしての所信をこう表明している。カナダ・モントリオールでのサマーキャンプを含めて、世界中から集まったハイレベルの選手たちに囲まれる日々を謳歌しているように映った今夏の久保と、完璧なまでにリンクしていると言っていい。 話をバイエルン戦に戻す。3点を追う後半36分。相手のパスをカットした新加入組の一人で、久保と同じ2001年生まれのFWロドリゴ・ゴエス(18)がそのままドリブル。ペナルティーエリア内へ侵入する直前でGKスヴェン・ウルライヒに倒され、直接フリーキックを獲得した。 ボールの背後にはロドリゴ、ヴィニシウス、そして久保がスタンバイした。最終的にはロドリゴが豪快な一撃を右隅へ突き刺して一矢を報いたが、同じシチュエーションが歴代で2位の若さとなる18歳5日で日本代表デビューを果たした、6月9日のエルサルバドル代表戦でも訪れている。 後半アディショナルタイムに獲得した直接フリーキック。左利きの久保も得意とする角度だったが、ファウルを獲得したMF中島翔哉(24)が蹴った一撃はゴールの枠をわずかにとらえられなかった。 「僕が(ファウルを)もらっていたら、僕が蹴っていました。そこは(ファウルを)もらった人が蹴るべきだと思います」 自分が蹴るつもりはなかったのか、という問いに久保はこう答えている。同じ原則がバイエルン戦でも貫かれたはずだし、だからこそ中2日でアーセナル戦、アトレティコ・マドリード戦と続くICCで再びチャンスを得て、自分のドリブル突破でファウルを獲得したときには、流暢なスペイン語や習得中の英語を介してアピールし自分の主義主張を唱えるだろう。 「何かもやもやした表現で申し訳ありませんけど、サッカー選手として大きな存在でありたい。『久保選手を見てサッカーを始めました』と言ってもらえるような選手に、より大きな影響を周囲に与えられるような選手に、ひと言で表現すればすごい選手になることが僕の目標です」 こんな言葉とともに自身の近未来像を描いてきた久保は、初めてプロの舞台に立った前述のパルセイロ戦で、本音とも受け取れるこんな言葉も残している。 「プロサッカー選手になったときに注目されなくなったら、それはよくないと思いますけど……いまはあまり注目してほしくない、という思いはあります」 プロサッカー選手がレアル・マドリードの一員に、好奇の視線を送る存在にスペイン人までもが加わったいまも、胸中に抱く思いは変わらないだろう。それでも、新天地でのデビュー戦で稀有な潜在能力の一端をのぞかせ、目指している「すごい選手」へ確実に近づいているいま、存在感を増すばかりの久保が抱く切なる望みは残念ながらかないそうにない。 (文責・藤江直人/スポーツライター)