アギーレジャパンが抱える死角
初陣となった9月シリーズの2試合で4失点。FW武藤嘉紀(FC東京)とMF柴崎岳(鹿島アントラーズ)の代表初ゴールが放つ眩い輝きの陰に隠れがちだが、ハビエル・アギーレ新監督の下で船出した新生日本代表は決して看過することのできない課題を抱えている。アギーレ監督は「堅守速攻」を基本的な戦い方として掲げている。ワールドカップ・ブラジル大会で旋風を巻き起こしたコスタリカ代表やチリ代表、指揮官の母国メキシコ代表などに共通するスタイルで、決して強国ではないチームが世界と対峙していく上でベストの選択と言っていい。 しかし、0対2の完敗を喫した5日のウルグアイ代表戦(札幌ドーム)、2対2で引き分けた9日のベネズエラ代表戦(横浜国際総合競技場)の試合内容を見る限りでは、チームの土台となるはずのディフェンスが「堅守」となり得ていないのが現実だ。 4つの失点はすべてミス絡みで喫している。ウルグアイ戦の1失点目はDF酒井宏樹(ハノーファー)が不用意に下げたバックパスを、初代表のDF坂井達弥(サガン鳥栖)がトラップミスした隙を突かれた。2失点目は右サイドからのクロスを、逆サイドの酒井が中へクリアしたプレーがきっかけとなった。ベネズエラ戦の1失点目は、パスをカットされたDF水本裕貴(サンフレッチェ広島)が相手を追走した末にPKを献上。2失点目はほぼ正面に飛んできた相手のミドルシュートをGK川島英永嗣(スタンダール・リエージュ)がファンブルするなど、2度奪ったリードを守り切れなかった。 アギーレ監督はベネズエラ戦後の記者会見で、「試合にミスはつきもの。2試合で4失点は多すぎるが、親善試合でまだよかった」と選手たちをかばっている。しかし、元日本代表MFで現在は解説者を務める水沼貴史氏は「ミスが起こる原因がある」とこう指摘する。「3人を逆三角形型で組ませている中盤で最も気になるのは、相手を見るのか、あるいはスペースを見るのかという判断が選手たちの間で統一されていない点となる。この曖昧さを解消しない限りは、掲げている堅守は達成できないのではないか。ゴールこそ割られなかったものの、私が数えた限りでは、ベネズエラ代表にシュートまで持っていかれたシーンが前半だけで7回はあった。川島は失点につながったキャッチミスがクローズアップされているし、それがゴールキーパーの宿命とも言えるのだけれども、前半に何度も見せた好セーブがなければベネズエラにも負けていた可能性もある」。 ベネズエラ戦では失点シーン以外にも前後半を通じて3本のミドルシュートを放たれ、いずれも川島のファインセーブでコーナーキックに逃れている。シュートを放った選手がほぼノーマークだった状態こそが、日本の守備組織が混乱をきたしている証でもある。前半24分にはバイタルエリアに侵入してきたFWサロモン・ロンドンに縦パスを入れられ、落とされたボールにFWマリオ・ロンドンが右足ボレーを合わせている。シュートは枠を外れたが、この場面では2人のFWがともにノーマークとなっていた点を問題視しなければならない。