メッチャ静かなホンダの新・燃料電池車「CR-V e:FCEV」外部充電でEVとして使えるってマジか?! 水素スタンドが遠くても大丈夫?
ホンダの燃料電池車「CR-V e:FCEV」が2024年7月にリース販売を開始したことはご存知だろうか。ホンダのみならず世界的にみても最新テクノロジーを詰め込んだ、その燃料電池車をついに公道試乗する機会に恵まれた。過去に「FCX」や「クラリティFUEL CELL」といったホンダの燃料電池車に試乗経験のある自動車コラムニストは、新世代の燃料電池車に隔世の感と理想の姿を感じたという。 【写真】水素と酸素から発電する燃料電池車「CR-V e:FCEV」809万4900円 PHOTO&REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya) 8年ぶり3度目の試乗となるホンダの燃料電池車、どう変わった? 2024年7月18日に発表された、ホンダの新型燃料電池車「CR-V e:FCEV」を、ついに公道で試乗する機会に恵まれた。燃料電池車といえば水素と酸素を反応させて発電する燃料電池(FC)を積んだ電動車両であり、水しか排出しないゼロエミッション車として、一時は未来のクルマの本命といわれていた。 EVの進化がめざましい昨今、燃料電池車はオワコンという見方もあるが、発電量コントロールが難しい再生可能エネルギーによる発電において、水を電気分解して得られる水素は、電力のストレージとして有望視されている面もある。最近では大気中のCO2と再生可能エネルギーによって生み出された水素からカーボンニュートラル燃料を作ろうという動きもあるが、そもそも水素生成量が増えるのであれば、水素燃料電池には一定の役割とニーズがあるという見方もできる。水素をそのまま利用できる燃料電池車はニッチかもしれないが、ゼロエミッションビークルの一角として欠かせないピースといえそうだ。 そして、ホンダは燃料電池車に四半世紀以上も取り組んでいる。なんと、最初にホンダが燃料電池車のプロトタイプを披露したのは1998年のことだ。 その後、2002年にはハッチバックスタイルの「FCX」、2008年には4ドアクーペの「FCXクラリティ」、2016年には5人乗りの4ドアセダン「クラリティFUEL CELL」をナンバー付きモデルとしてローンチしている。2024年に発売開始となった「CR-V e:FCEV」は、まさに最新の燃料電池車というわけだ。 ちなみに、筆者は2005年にホンダ製FCスタックとなった「FCX」と2016年にクラリティ・シリーズの先兵として登場した「クラリティFUEL CELL」に公道試乗した経験がある。ホンダの燃料電池車に公道で乗るのは「CR-V e:FCEV」で8年ぶり3台目だ。過去の試乗経験を振り返ると、FCXでは加速時にジェット機のような音が勇ましかった印象を思い出す。クラリティFUEL CELLでも燃料電池に空気を送る電動コンプレッサーのノイズが大きかった印象が強い。 燃料電池には水素に見合った酸素を供給するため、空気をブロワーなどで送り込む必要があり、燃料電池の出力に比例するように大きくなる、そのノイズは燃料電池車の特徴となっていた。そのため「EVはインバーター音が聞こえるくらいでほとんど静音状態だけれど、燃料電池車はけっこうノイジーなので同じゼロエミッション車といっても印象が異なる」と識別ポイントを紹介してきたことが多い。 はたして、最新の燃料電池車「CR-V e:FCEV」は、どんな燃料電池車らしさを感じさせてくれるのだろうか。コックピットに座った第一印象は、燃料電池を積んだ特別感はほとんどなく、最新世代のホンダ車らしい雰囲気だったが…。 燃料電池の存在を忘れるほど静かで、まるで出来のいいEV ホンダ最新の燃料電池車である「CR-V e:FCEV」が、過去の燃料電池車と大きく異なるのはCR-Vという超人気車種の派生モデルとして生まれていること、ホンダの燃料電池車として初めてSUVフォルムであることなどが挙げられるが、メカニズム的にはキーデバイスである燃料電池スタックがGM(ゼネラルモーターズ)との共同開発になっていることが要注目だ。 今回の試乗は、街中を中心としたショートトリップとなったので、燃料電池車ならではのロングツーリング性を確認することはできなかったが、駐車場から動き出した瞬間に驚いたのは、過去の燃料電池車では感じたことのない静かな空間だったこと。詳細は後述するが、「CR-V e:FCEV」は17kWh相当の大きな駆動用バッテリーを持ち、しかも外部充電に対応しているため、十分に充電されていればEV状態で走り出すことができる。 そのため走り出しの静けさはEVモード(燃料電池が起動していない)ゆえのアドバンテージかと思いきや、燃料電池が動き出すようになっても、その静かな空間にほとんど変化はない。冒頭で記したように過去に乗ったことのある燃料電池車では空気を送り込むノイズが目立っていたが、「CR-V e:FCEV」ではそうした特徴は微塵もないのだ。 これはGMと共同開発した燃料電池スタックの性能というよりも、「CR-V e:FCEV」の開発にあたって、パワートレイン系をひとつにまとめ、それをゴムマウントで支える構造としたことが効いているはずだ。これによりコンプレッサー系などのノイズを大幅に低減することができたのは、はっきり新世代・燃料電池車の進化が実感できる。運転している限り、燃料電池車というよりは、EVのようだ。しかも、遮音性能に優れたEVと同等かそれ以上の静粛性を味わうことができる。 ただし、後席に座ると少々事情は変わってくる。ハッチバックボディのため仕方がない部分でもあるが、ラゲッジからのノイズはそれなりに侵入してくるほか、水素タンクから燃料電池スタックへ水素を送るパイプ由来の高周波ノイズが乗員に届くこともある。けっしてエンジン車に比べて煩いというわけではなく燃料電池車らしいといえばそれまでのレベルであるが、フロントのほうが快適なのは間違いなく、「CR-V e:FCEV」はドライバーズカーとしての評価のほうが高い、といえそうだ。 外部充電対応で、近場に水素ステーションがなくとも運用可能になった EVと比べて、水素燃料電池車のメリットとしてよく言われるのは水素の充填時間が5分程度と短いこと。CR-V e:FCEVの場合、メーカー測定では満充填で約621kmを走ることができる。これはどんな超急速充電に対応したEVでも真似のできないアドバンテージだ。タイム・イズ・マネーという格言もあるように充電よりも圧倒的に短い水素充填に価値を見出すのであれば、高価な燃料電池車を購入するインセンティブになり得る。 しかしながらというか、残念ながらというか、現時点では水素ステーション自体の数が少なく、日常的に燃料電池車を運用するには水素ステーションまで往復する”ムダな時間”が必要になってしまうというユーザーのほうが圧倒的多数だろう。 そうしたウィークポイントへのソリューションとして、CR-V e:FCEVは外部充電に対応したプラグインハイブリッド機能を持たせた。燃料電池車であってもパワートレイン全体の効率を考えると電気をバッファするための駆動用バッテリーは必須だが、その総電力量を17kWhと増やしたうえで、外部充電(普通充電のみ)を可能としているのだ。しかも、バッテリーだけで61kmを走ることができるという。 仮に水素ステーションが近所にないというケースであっても、日常的にはショートレンジのEVとして活用することができるので、水素の充填にムダな時間を使わずに済む。遠出するときには、ルート途中の水素ステーションで満タンにすれば遠回りせずに済む。また、なんらかの事情で水素残量がギリギリの状態であってもバッテリーを充電することで一定の距離を走れるというのは運用における冗長性の面でも安心感がある。 ただ、ひとつ残念なのはCR-V e:FCEVの情報標示が燃料電池車に特化したキライがあり、ショートレンジEVとして使うにはバッテリー残量から航続可能距離を推定するなどドライバーのスキルが求められる部分があること。日常はEVとして、週末は燃料電池車として、二面性を使い分けるには、メーター表示などもそれぞれの特性に合わせたモードを用意してほしいと思ってしまったのは正直なところだ。 走る発電機としての機能も多彩で魅力的 SUVで遠出するといえばキャンプなどアウトドアレジャーが思い浮かぶが、CR-V e:FCEVはそうしたときに大いに役立つ給電機能を持っている。標準装備される「パワーサプライコネクター」は、普通充電ポートに差し込むことで最大1500Wまでの家電を利用可能とするもの。ホットプレートや炊飯器も使えるのでバーベキューなどもはかどりそうだ。 ラゲッジルームには日本独自の急速充電規格としてお馴染みの「CHAdeMO」ポートが用意されている。こちらは給電専用で、ホンダが別売りとして用意している「パワーエクスポーター」のような給電装置を使うことで災害時の電力供給も可能としている。こうした機能は個人ユースというより法人や自治体で活用されるものといえるが、燃料電池車の社会存在を高める機能といえそうだ。 なお、今回の試乗では体感することはなかったが、先進運転支援システム「ホンダセンシング」も高レベルだ。フロントのメインセンサーは単眼カメラとミリ波レーダーをフュージョンしたもので、斜め後方の車両を検知するブラインドスポットインフォメーション用コーナーレーダーも装備。前後それぞれ4個のソナーにより近距離の障害物を検知するなど、最新世代となっている。 CR-V e:FCEV主要スペック CR-V e:FCEV 全長×全幅×全高:4805mm×1865mm×1690mm ホイールベース:2700mm 車両重量:2010kg 燃料電池スタック:固体高分子型 燃料電池最高出力:125PS(92.2kW) 燃料種類:圧縮水素燃料タンク:本数2本・合計109L モーター種類:交流同期電動機 最高出力:177PS(130kW) 最大トルク:310Nm 駆動方式:FWD 駆動バッテリー種類:リチウムイオン バッテリー総電力量:17kWh 最小回転半径:5.5m 最低地上高:170mm タイヤサイズ:235/60R18 103H 乗車定員:5名 メーカー希望小売価格:809万4900円
山本 晋也