衆院選と米国大統領戦で見えた日本とアメリカ「残念なほどの違い」、アメリカにあって日本にない議論とは?
アメリカ大統領選挙では、経済問題に関して、国を二分する大きな問題が議論された。これは、経済成長に取り残された人々がいるからだ。そうなるのは、アメリカの産業構造が変化しているからだ。これに対して日本では、産業構造がさほど変化していないので、総選挙においても経済問題での本格的な対立はなかった。 昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第133回。
■アメリカの産業構造は大きく変わった 11月5日にアメリカ大統領選が行われた。本稿執筆時点ではその結果はわからないのだが、以下では、この選挙を通じて問われたことの本質が何であったかを考えることとしたい。 それは、一言で言えば、「異質なもの、あるいは従来はなかったものを、認めるか否か」ということだ。 1980年代からのアメリカは、世界経済の変化、とくに中国の工業化によって、大きく変貌した。新しいアメリカには、それまではなかった新しい企業群が登場し、目覚ましく成長した。とりわけ大きな変化は、カリフォルニア州のシリコンバレーと呼ばれる地域を中心として、情報産業が発達したことだ。これが、IT革命だ。
しかし、こうした変化から見捨てられた人たちがいた。その典型が、ラストベルトと呼ばれる地域で、1980年代までのアメリカの中核産業であった鉄鋼・自動車などの製造業に雇用されていた人々だ。これらの人々は、自動車や鉄鋼産業が日本や中国からの輸入によって衰退したため、職を失った。 ラストベルトでは、それらに代わって、新しい産業である製薬産業が成長した。 アメリカ全体を見ても、1980年代までにアメリカを支配した製造業は、時価総額でほとんど見る影もないほどに衰退した。その半面で、時価総額リストのトップを占める企業は、1980年代には存在しなかった企業がほとんどだ。
■新しい産業を作ったのは、「新しいアメリカ人」 もう1つ重要な点は、前記の新しい企業群を作ったのは、移民、あるいは移民の子である場合が多いことだ。これはとくに、シリコンバレーのIT企業に顕著に見られる傾向だ。 こうした人々は、従来のアメリカ人ではなく、「新しいアメリカ人」なのである(なお、「新しいアメリカ人」は、最近になって始まったことではない。昔から、アメリカの発展を支えてきたのは、こうした人々だ)。