【真理子の部屋／月曜中京１１Ｒ】だから競走馬は美しい
【真理子の部屋／月曜中京１１Ｒ・アニバーサリーＳ】 競馬に携わる方々を独自の感性で描き続けてきた赤城真理子記者。それらは「予想」というカテゴリーにとどまらない、ある種の〝物語〟といっていいのかもしれない。最前線で活躍する赤城記者がお届けする人馬のストーリーをぜひご堪能ください。
◆だから競走馬は美しい
人生は苦手の克服の連続だと常々思います。自分じゃない人間にはなれなくても、理想とする自分にはなりたい。苦手を克服していきたい。そう心では強く思っていても、実際にはすごく難しいことです。私自身、人見知りがきつくて人づきあいも苦手ですが、大人になって人見知りを言い訳に他人に気を使わせるなんてことはできませんから、学生の頃に比べ表面上はマシになったかなと思います。 でも、内面はあまり変わっていなくて、誰かと話すたびに一人反省会が始まり、他人の少しの態度の違いで被害妄想が止まらなくなり、全人類から嫌われているかのような気分にまでなってしまいます。自意識過剰にも程があるだろうって話なんですけど、いずれにしても本当の意味での克服はできていないんですね。 ですから、前走のゴッドブルービー（牡４・角田）、札幌の大雪ハンデキャップの競馬を見て〝推し〟だからというだけではなく、涙が出そうになりました。
◆あのゴッドブルービーが…
本当は北海道に行くのも心配だったんです。だって、馬運車があまり得意でなかったはずで、滞在していた函館までの輸送は栗東からだと２０時間もかかるから。でも、いつもすごく優しくて朗らかで馬を不安にさせない上村助手が側にいるから大丈夫だと信じてもいました。上村助手は出発前、「西原（いつもブルービーの調教にまたがってきた攻め専の助手さん）が函館には来れないから不安やわ」っておっしゃっていましたけど（笑）。 当日、パドックに出てきたブルービーは前走で減っていた馬体を戻すどころかそれ以上に増やしての出走（プラス１６キロの４６８キロ）。数字を確認して「さすが上村さん！」と思いましたし、ブロンズ像のように輝く黒鹿毛の馬体には改めてホレボレしました。さらに、そこからのレースぶりといったら！ 「１枠１番から出たなりで前めを追走して脚をため、ラストまでしっかり伸びて２着」。こう振り返れば簡潔かもしれないですが、私はあえて付け足します。まず序盤からビッシリ砂をかぶっていた。さらに４コーナーでは外から一気に馬が来て馬群でモマれこんだ。これって、ブルービーにとってすごく苦手なことだったはず。以前ならモロさも出ていたはずです。でも、あの日のブルービーは違っていました。最後まで気迫衰えず、ゴール前はなんと３着馬と内ラチの隙間に突っ込んで伸びてきたんです！！ ２走前の小倉（薩摩Ｓ＝５着）で、角田大和騎手がブルービーを必死で鼓舞しながら追ってこられたレースも生きている気がしました。それだけでなく、ブルービーに乗ってきた全ての騎手の教え、そして陣営がずっとずっと調教でやってきたことが、ブルービーの走りに、何があっても闘志を失わず燃え続けていた目に、現れていました。 ２０２３年１１月２６日の京都ダート１４００メートル戦――。思い返せば、当時ブルービーは向正面で何度も何度も他馬に接触し、横方向の玉突き事故のような形になってしまったんです（１３着）。一連の経緯を知っているからこそ前走のブルービーの姿は、あの厳しいレースを経験した馬とは思えない走りでした。苦手を克服し、トラウマも感じていない。「なんて強い馬なんだろう」って、心から思いました。
