危機管理の切り口から見る近時の裁判例(その5)
2 最近の危機管理・コンプライアンスに係るトピックについて
執筆者: 木目田 裕、宮本 聡、西田 朝輝、澤井 雅登 危機管理又はコンプライアンスの観点から、重要と思われるトピックを以下のとおり取りまとめましたので、ご参照ください。 なお、個別の案件につきましては、当事務所が関与しているものもありますため、一切掲載を控えさせていただいております。 【2024年10月28日】 東京都、「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)(検討会議案)」及び「各団体共通マニュアル(素案)」を公表 https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuhara_kaigi/02/index.html 2024年10月28日、東京都に設置された、カスタマーハラスメント防止ガイドライン等検討会議は、「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)(検討会議案)」(以下「本指針案」といいます。)及び「各団体共通マニュアル(素案)」を公表しました。 2024年10月に成立した東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(2025年4月1日施行。以下「本条例」といいます。)は、カスタマー・ハラスメントの禁止(4条。ただし、罰則なし。)、事業者のカスタマー・ハラスメント防止に関する努力義務(9条及び14条)等を定めるとともに、東京都がカスタマー・ハラスメントの内容、顧客等、就業者及び事業者の責務等に関する指針を定めるとしております(11条)。本指針案は、かかる規定に基づき策定されたものです。 また、「各団体共通マニュアル(素案)」は、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例14条等※22に基づき、各業界団体においてカスタマー・ハラスメント防止のためのマニュアルを作成する場合の共通事項や作成のポイントをまとめたものです。 ※22 本条例14条は、「カスタマー・ハラスメントを防止するための措置として、指針に基づき、必要な体制の整備、カスタマー・ハラスメントを受けた就業者への配慮、カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成その他の措置を講ずるよう努めなければならない。」と定めています。 本指針案では、例えば、本条例が、(1)顧客等から就業者に対し、(2)その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、(3)就業環境を害するものをいうと定めるカスタマー・ハラスメントの定義(2条5号)について、以下のとおり述べており、参考となります。 ・(1)から(3)の要素を全て満たさない場合でも、「著しい迷惑行為」は、「刑法等に基づき処罰される可能性や、民法に基づき損害賠償を請求される可能性がある」。 ・本条例2条4号は、(2)の「著しい迷惑行為」について、「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為をいう。」と定めるが、この「暴行、脅迫その他の違法な行為」とは、「暴行、脅迫、傷害、強要、名誉毀損、侮辱、威力業務妨害、不退去等の刑法に規定する違法な行為のほか、ストーカー規制法や軽犯罪法等の特別刑法に規定する違法な行為」をいい、「正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為」とは、「客観的に合理的で社会通念上相当であると認められる理由がなく、要求内容の妥当性に照らして不相当であるものや、大きな声を上げて秩序を乱すなど、行為の手段・態様が不相当であるもの」をいう。 ・労働時間内だけではなく、「労働時間外の就業者又は定まった労働時間がない就業者が受けた、その業務遂行に影響を与える顧客等からの著しい迷惑行為」も、(2)の「その業務に関して」の要件を満たす。 【2024年11月8日】 金融庁、「記述情報の開示の好事例集2024(第1弾)」を公表 https://www.fsa.go.jp/news/r6/singi/20241108.html 金融庁は、2024年11月8日、2023年1月に改正された企業内容等の開示に関する内閣府令によって、有価証券報告書等に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設されたことを踏まえ、同記載欄の開示の好事例を取りまとめ、「記述情報の開示の好事例集2024(第1弾)」として公表しました※23。 ※23 昨年度の事例集については、 本ニューズレター2024年1月31日号 (「金融庁、「記述情報の開示の好事例集2023」を公表」)をご参照ください。 本事例集は、サステナビリティに関する「全般的要求事項」、「個別テーマ」の各項目について開示例を紹介するなどしています。 本事例集は、2024年の「第1弾」とされており、今後、気候変動等や人的資本などの項目が追加される予定とのことです。 【2024年11月12日】 日本監査役協会、「『監査役会等の実効性評価』の実施と開示の状況」を公表 https://www.kansa.or.jp/news/post-13725/ 日本監査役協会は、2024年11月12日、「『監査役会等の実効性評価』の実施と開示の状況」を公表しました。本報告書は、日本監査役協会のケース・スタディ委員会が、2024年に会員上場会社を対象に実施したアンケート調査の結果をもとに、上場会社における監査役会等の実効性評価※24や監査活動の振り返り※25の実施状況、実施内容について取りまとめたものです。 ※24 本報告書においては、監査役会等の実効性評価とは、「当期の監査役会等の構成・運営や各監査役等の監査活動等の実績について、チェックリストを用いるなど各社適宜の方法により網羅的に評価して、次期の監査計画への反映及び識別された課題の改善につなげる一連の活動であり、監査役会等の実効性向上とステークホルダーからの信頼の獲得を目的とした『実効性評価』と称するもの」を指すとされております。 ※25 本報告書においては、監査活動の振り返りとは、「実効性評価には至らない監査活動の振り返りやレビュー」を指すとされております。 本報告書によると、全体の19.7%、プライム市場上場会社の26.2%が監査役会等の実効性評価を実施しており、全体の41.8%、プライム市場上場会社の40.5%が監査活動の振り返りを実施していました。 また、実施方法は、監査役会等の実効性評価については、監査役を対象としたアンケートや、監査役会での意見交換や議論が多く、監査活動の振り返りについては、監査役会での意見交換や議論が最も多いとされています。そして、評価項目としては、監査役会等の実効性評価や監査活動の振り返りのいずれについても、(1)監査役会の開催回数、審議時間など、(2)会計監査人との連携、意見交換、情報共有など、(3)内部監査部門との連携、意見交換、情報共有など、(4)代表取締役等との意見交換・提言・助言等が上位の項目であるとされています。
木目田 裕,宮本 聡,西田 朝輝,澤井 雅登,寺西 美由輝,内田 治寿