引退か移籍か。阪神の鳥谷への「今年で辞めて下さい」“引退勧告”は暗黒史を彷彿させる不手際
鳥谷は2016年に就任した金本前監督が強引に進めた世代交代によって出場チャンスを失って成績が急落。2017年には三塁でゴールデングラブ賞を獲得するなどV字回復を見せたが、昨年は「三塁・大山」の構想でポジションがなくなり再び成績が落ち、矢野監督が就任した今季は「ショートで勝負」を宣言したが、チャンスは若手に与えられた。鳥谷は、元々爆発力のある選手ではない。1シーズンを通じて結果を残し、チームに貢献するトータルプレーヤーである。3年連続で獲得した四球王や、最高出塁率のタイトルなどが、その典型。代打で戦力になるタイプではなく、出場機会がなくなればなくなるほど力は発揮できない。監督の采配に左右されたのは、鳥谷の悲運とも言えるが、その厳しい状況を実力で跳ねのけるだけの力がなくなっていたことも事実だろう。この成績では5年契約の年俸には釣り合わない。だが、年俸を中日に移籍した際の松坂大輔並みに大幅に下げて出来高制にするなど、鳥谷残留の方向もあっただろう。 プロ野球は、もちろん契約社会である。そこに情が入り込む余地はない、というメジャー式の考え方はある。だが、ファンの支持があり、将来、監督、コーチになるべき幹部候補生には、それなりの手順、配慮が必要なのだ。まして鳥谷は、不満を口にすることなどなく、黙々と懸命にチームをバックアップしてきた。 ビジネスライクに事を運ぶ日ハムでさえ、今季は開幕前に田中賢介の今季限りでの引退を発表。ラストイヤーに花を添えている。今回、阪神は明らかにやり方を間違ったのだ。 では、鳥谷は、今後どうするのだろうか? 鳥谷は、5年前にメジャー移籍を目指したが、悩んだ末、阪神への残留を選択した。その経緯があるだけに「将来、ユニホームを脱ぐときは阪神で」との決意があったとも聞く。だが、現在、鳥谷の心境は白紙になっているようだ。突然、呼び出され「今年で辞めて下さい」では、引退も、他球団移籍も何も考えられないだろう。 移籍を選択した場合、鳥谷の野球へ取り組む姿勢を高く評価しているロッテの井口監督が声をかけるだろう。中日、オリックスなど他球団が獲得を検討する可能性も十分にある。明らかに「振れない、走れない、守れない」という限界を迎えたわけではない。球界屈指の豊富な練習量に支えられ38歳とは思えないパフォーマンスを維持している。 この日の巨人戦で8回、鳥谷はネクストバッターズサークルにいた。だが、9番に打順が回ってこず、9回、巨人が左腕の中川をマウンドに送ったことで、先頭の代打は右打者の俊介となり鳥谷に出番は回ってこなかった。「温情采配か」と物議を呼んだが、28日の中日戦で矢野監督は7回二死二、三塁で梅野に代えて鳥谷を送った。 大山が、初めてスタメンを外れ、もう内野に“聖域”がなくなった今、「鳥谷・三塁」、「鳥谷・ショート」のスタメン起用のチャンスも出てくるかもしれないが、“引退勧告”を受けた鳥谷は、これから、どんな気持ちでグラウンドに立ち続ければいいのだろうか。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)