けが克服「夏は正捕手に」 聖カタリナ疋田捕手 選抜高校野球
第93回選抜高校野球大会第5日(24日)の第1試合。聖カタリナ学園(愛媛)の控え捕手、疋田昂大(こうた)選手(3年)はベンチから勢いよく飛び出した。1―3と2点差に詰め寄って迎えた八回裏1死一、二塁。長打が出れば試合を決定づけられるピンチに伝令として仲間が集まるマウンドに。けがを乗り越えてここまで来た喜びをかみしめた。 【聖カタリナ学園―東海大菅生 熱戦を写真で】 「バキッ!」。2019年秋、県大会後の練習試合。一塁にヘッドスライディングした際、嫌な音と共に右肩に激痛が走った。ただその場でうずくまるしかなかった。脱臼だった。間もなく練習に復帰できたが、翌年6月に再び状況は暗転。練習試合で同じ箇所を再び脱臼した。医師から告げられた診断名は「反復性肩関節脱臼」。日常動作でも癖になるのが特徴で当面は運動を控えるよう指示された。目の前が真っ暗になった。 手術するか、思い悩んだ。野球ができるぐらいに回復するには数カ月かかる。新チーム結成どころか、秋の県大会にも間に合わない。だましだましで野球を続けることも頭をよぎったが長期的には手術してしっかりと治した方が良いのは分かっていた。ただ、気持ちは晴れない。そんな時、エース・桜井頼之介(よりのすけ)投手(3年)に声を掛けられた。「甲子園で俺の球を受けてくれよ」 お互い越境入学で寮生活を送る。野球から学校生活まで何でも悩みを相談しあう無二の存在だった。「ヨリ(桜井投手)の球なら必ず甲子園に行ける。けがを治し、あの大舞台でバッテリーを組みたい」。目標が明確になった。 8月の手術後は記録員を務め、仲間をバックアップ。そして10月31日、四国大会の準決勝。この日はリハビリのため地元・神奈川に戻っていた。病院から自宅に帰る途中の電車でスマートフォンが鳴った。画面には「準決勝も勝った。お前のために投げた」とのメッセージ。桜井投手からだった。照れ隠しで一言「ありがとう」と返信したが、「やるしかないなって、本気で思った」。 11月からは全体練習にも復帰。当初は自由に体は動かなかったが、その分苦手だった打撃を鍛え、見事に登録メンバー入りした。東海大菅生(東京)との初戦。桜井投手のピンチの場面で伝令として走り、「焦らず、一個ずつアウトを取っていけよ」。試合には敗れ、桜井投手の球を受けるチャンスはなくなったが「甲子園のグラウンドに1回でも立てたことは本当に良い経験。夏は正捕手として、ヨリの球を受けたい」と前を向いた。【遠藤龍】 ◇全31試合を動画中継 公式サイト「センバツLIVE!」では、大会期間中、全31試合を中継します(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2021)。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/senbatsu/)でも展開します。