自閉症の療育は「質より量」が効果的!専門家がおうち療育を勧める理由
「療育に通っていればいい」というわけではありません
私はこれまでに、子どもの発語に悩む親御さんの相談を400件以上受けてきました。 その大半が「療育施設に通っていても思うように伸びない」というものでした。大きな理由として、次の3つが考えられます。 伸びない理由 1:療育の量が圧倒的に足りない 子どもの未熟な脳を育てる療育は、質より「量」がものをいいます。脳への刺激が少なければ、脳が発達する機会も減るということです。週に1回30分~1時間の療育だけに頼ってしまうと、どんなに通わせても、圧倒的に「量」が足りず、成果が現れにくいのは当然です。 伸びない理由 2:親が焦るあまり叱ってしまう 「先生の前では席に座って課題に取り組めるのに、家では食事のときでさえ座ってくれません」と悩んでいる親御さんは多いです。「園ではできています。家だと甘やかしているのでは?」と言われ、傷ついている方を私もたくさん見てきました。 家では言うことを聞いてくれないわが子に焦り、イライラして怒ってしまうと、さらに子どもが言うことを聞かなくなる……という負のループに陥ってしまいます。こうなると、子どもの脳はなかなか伸びません。 伸びない理由 3:療育に任せきりで安心してしまう 「頑張って療育施設に通わせているのだから成長するだろう」と先生任せでは、うまくいきません。 本来ことばの訓練は、家庭での練習が不可欠です。 ピアノだって、家で練習せずに週1回教室に通っただけでは、なかなか上達しませんよね。療育に通っているから安心とばかりに、家ではスマホを見せっぱなし、叱りっぱなしでは、療育の効果は半減してしまいます。
療育は質より「量」がものをいう
年間約24時間VS 年間約3000時間―。 この数字が何を指しているか、皆さんはおわかりになりますか? これは私の娘が年長時に児童発達支援事業所で受けていた療育と、おうち療育に切り替えた後の療育にそれぞれ費やした時間の比較です。その差はなんと年間で100倍以上。これに気づいたとき、私は愕然としました。 娘が年長のときに通っていた療育は、30分間の子どもへの介入に15 分間の親への振り返りの時間が設けられていました。フルタイムで働く私は、なんとか有休を使いながら週1回の療育に連れていくことが精一杯。にもかかわらず、娘の療育は1カ月に2時間、年間わずか24時間でした。 その後、小学校入学とともに児童発達支援事業所での療育は終了。7歳のときに自宅で脳を育てるコミュニケーションメソッド『発達科学コミュニケーション』に出会い、おうち療育をスタートさせます。おうち療育と言っても、教材や道具は一切使いません。特定の時間を設けてみっちり療育をするよりも、日常生活の中で脳が育つ声かけを散りばめることが大事だと、このとき私は学びました。親子で共に過ごす時間に親の声かけを変えるだけで、子どもの脳がぐんと伸びるのです。 ざっくり計算してみると、娘が学校に通っている日は朝1時間と夕方~夜の5時間で計6時間、休日は起きている時間の約14時間が、おうち療育の時間になります。つまり、『発達科学コミュニケーション』を実践するだけのおうち療育の時間は週約58時間で、月約232時間を超え、年間約3000時間に達していたのです。 子どもへの療育は、質より「量」がものをいいます。なぜなら、子どもの脳はまだ完成されていない未熟な脳だからです。「量」の問題を解決するには、ここでママやパパがひと肌脱ぐことが最も効率的です。 英会話と同じです。週1回30分だけ有名な先生の英会話レッスンを受けるよりも、日常的に家族が英語で話す環境のほうが、明らかに上達が早いはずです。 娘が小学2年生になるまで、私は児童発達支援事業所に勤める臨床心理士でした。療育施設の心理職という立場からみても、おうちでの療育は大事だと考えます。なぜなら、療育に来たお子さんが私の前ではできても、おうちだと思うようにできないことが往々にしてあったからです。 たまに会う私の前では椅子に座ったり、絵本を読んだりできていても、おうちでは言うことを聞かず、癇癪を起こします。結局、ママが悩み果てイライラして怒ったあげく、子どもがまた癇癪を起こすという悪循環を繰り返すのです。 子どもにとって一番身近にいる大好きなママやパパとの肯定的なコミュニケーションが最良の療育です。年齢は何歳からでも可能ですし、施設での療育と併用するのも効果的です。 おうち療育でことばを伸ばすのはもちろんですが、脳を育てるコミュニケーションが目指すのは、自信や意欲、人と関わりたいという欲求を高めることです。叱りつけるばかりの否定的な声かけをやめ、できたところに注目する肯定的な声かけに変えると、嫌がって療育施設の部屋に入れなかったお子さんが、先生の前でも新しいことに挑戦したり、「できた!」の気持ちを共有できるようになったりと、大変身します。 施設療育の効果を高めるためにも、一緒におうち療育を活用してほしいと思います。
今川ホルン