大谷翔平、ダルビッシュの影響? センバツで流行の「投球革命」
小さなテークバックに、ゆったりとした足の上げ下ろし……。新しく導入された低反発の金属バットが注目される第96回選抜高校野球大会だが、投手の投球フォームにも新たなトレンドが生まれつつある。 【写真まとめ】飛ばない金属バットで高校野球が激変? ◇大谷翔平、ダルビッシュ有の影響? 18日の開幕試合からその傾向はみられた。八戸学院光星(青森)―関東一(東京)。延長タイブレークの十回から登板した八戸学院光星の2番手左腕・岡本琉奨(るい)投手は、テークバックの小さな腕の振りから力強い速球を投げ込み、2回無安打1失点に抑えて勝利を呼び込んだ。 フォームの改造に取り組んだのは今冬だった。右足が着地した際に左腕が遅れて出てくる癖を修正するため、トレーナーに相談した。テークバックが小さい「ショートアーム」を提案され実践すると、「リリースのばらつきが少なくなり、しっくりきた」。制球が安定するようになった。 大会開幕前の甲子園練習から「ショートアーム」を取り入れる選手は目についていた。 宇治山田商(三重)の185センチの長身右腕・中村帆高投手も制球を安定させるため、冬にテークバックを小さくするフォームに修正した。お手本にしたのは、昨季のパ・リーグ新人王に輝いたオリックスの山下舜平大(しゅんぺいた)投手。動画投稿サイト「ユーチューブ」などで190センチの長身右腕の投球フォームを研究した。 1回戦の東海大福岡戦は1点リードの八回から3番手で登板。2回を無失点に抑えて試合を締め、「変化球は制球良く投げられ、トレーニングの成果が出た」と手応えを口にした。 腕を大きく回しながら投げるフォームが一般的だが、米大リーグのダルビッシュ有投手(パドレス)、大谷翔平投手(ドジャース)に代表されるように、プロの世界ではショートアームが増えている印象がある。 元阪神トレーニングコーチでダルビッシュ投手のフォーム改善にも携わった前田健さん(55)は「上げた足を着地させた時点で肘が肩の高さに上がっている必要がある。例えば、テークバックが背中に入りすぎてしまうと、足が着地した時点で肘が肩の高さまで上がってこないケースがある」と指摘する。 そういった投手がショートアームを取り入れることで、「腕を上げ下げする時間を省略でき、着地時点で肘が肩の高さに上がるようになれば、球速や制球力が向上するだけでなく、けがの予防にもなる」と解説する。 ◇解禁後に2段モーション続々 腕だけでなく、高校球界では足の使い方にも変化が起きている。日本高校野球連盟は2月に投手が一度上げた足を上下するなどの「2段モーション」を反則投球として扱わないとした。 プロ野球では2018年に解禁され、社会人や大学でも規制の対象となっていないため、特別規則から削除して足並みをそろえた。 阿南光(徳島)の吉岡暖(はる)投手は「リズムを作れ、軸足に体重を乗せて投げることができる」と、2段モーションを取り入れた。ゆったりとした足の上げ下ろしから多彩な変化球を投げ込み、初戦は強打の豊川(愛知)打線を翻弄(ほんろう)。11奪三振、4失点で完投し、校名が新野(あらたの)だった1992年以来、32年ぶりの勝利に導いた。2回戦の熊本国府戦は5安打、14奪三振と圧巻の投球で完封した。 大阪桐蔭では最速149キロを誇る右腕・中野大虎ら複数の投手が2段モーションで投げるなど、解禁イヤーからフォームの変更が活発だ。西谷浩一監督は「しっかりタメを作って、自分の形やバランスで投げるということで、コーチと話し合いながら取り組んでいる。うまく活用できている」と語る。 前田さんによると、科学的な分析では2段モーションに優位性はないとされる。だが、前田さんは個人的な見解として「メリットはあると思う」と言う。 その理由として、「投球方向に勢いよく進めた方が球速は上がりやすい。足を上げてから重心を沈め始めるまでの軸足の投球方向への傾きが、勢いよく進むことのポイントになる」とし、「1段目の足上げで真っすぐ立って安定して、2段目の足上げで軸足を投球方向へ傾けることができる2段モーションだと、勢いのあるステップに移行しやすいと感じる投手は多い」と話す。【村上正、長宗拓弥】