フィリピン・ミンダナオ島 忘れ去られた内戦と避難民
ついにマラウィ市へ
1年後の2018年8月7日。 再びミンダナオ島に入った。その日は、ミンダナオ島北部のカガヤン・デ・オロ空港からバスを乗り継ぎ1時間半のイリガン市で一泊し、翌朝、マラウィ市があるミンダナオ島南部方面行きのバスや大型バンなどが待機するターミナルに向かった。売店の店主にマラウィ市行きはあるか尋ねると、大型バンを指差した。大型バンにはすでに多くの人が乗り込んでいた。ヒジャブ(イスラム教徒の女性が髪を隠すための布)を被った女性たちが、スマートフォンをさわりながら思い思いに出発を待っている。イスラム都市であるマラウィ市出身者だろうか。 出発し、大型バンがイリガン市内の幹線道路を抜け山道に入った。道路脇に生い茂る木々の隙間から、椰子の木や南国植物に覆われた自然豊かな山々が見える。 集落や市場、学校をいくつか通り過ぎると、オレンジ色に塗装された「ようこそ、イスラム都市マラウィへ」と書かれた巨大な門が目に入ってきた。1年前には入ることがかなわなかったマラウィ市だ。
政府軍に燃やされ、荒れ果てた家
中心部と思われる場所でバンを降りる。天気が良く日差しは強いが、標高が高いためかあまり暑さを感じない。東京の猛暑に比べると避暑地のようだ。大通りは車やバイクが途切れることなく走る。「意外と活気があるな」と感じた。 ひとまず街中の様子を見ようと歩いていると、市内を流れるアグス川沿いにある休憩所で男性が友人と談笑していた。頭にイスラム教徒の男性が被る白く浅い帽子、年齢は30歳前後だろうか。歩き疲れていたこともあり、少し休憩させてもらおうと話しかけてみた。 ニコライと名乗った男性は、「どこから来たの。なんでこんなところに?」と問いかけてきた。「旅行で来たんだ」と告げると、体をずらしてベンチを空け休ませてくれた。その後しばらく、彼や彼の友達に現地語であるマラナオ語を教えてもらいながら話をしていると、自然と昨年マラウィ市で起きた内戦の話になった。 「去年の内戦の時、過激派組織に家を占領された。そのせいで俺の家は政府軍に爆撃されて、燃やされたんだ。でも政府は未だ何の保証もしてくれない」。そうつぶやくと、休憩所の隣にある家を案内してくれた。 ニコライは、通りに面する家の外壁を指差す。「見てくれよ。『I LOVE ISIS』って壁に書かれているだろう」。そこにはスプレーで殴り書きされた文字。シリア内戦において台頭した過激派組織ISに忠誠を誓って書かれたものだろう。 「上から見ると、家が壊れた様子がよく分かるから」。そう言って、器用に家の壁を登るニコライにならい、コンクリートの壁に手と足をかける。家の2階だったと思われる場所にたどり着くと、荒れ果てた空間が目に入る。ドアは無く、錆びついて赤茶けたトタン屋根が散乱している。それ以外は何一つ残っていなかった。