フィリピン・ミンダナオ島 忘れ去られた内戦と避難民
支援に取り組むNGO「マラデカ」
マラウィ市の外れ、3階建ての大きな建物に入ると、オフィスの中で女性たちがパソコンに向かい、真剣な表情で仕事に励んでいた。私が部屋に入ると、彼女たちは仕事の手を止め、明るく話しかけてもてなしてくれる。 彼女たちは、現地NGOマラデカ(MARADECA)のスタッフ達だ。100人以上のスタッフがいるのだが、みんな底抜けに明るい。しかし、彼女たちの多くは、家を戦闘で破壊されて帰る場所を失った避難民でもある。 平和教育プログラム担当の女性スタッフ、ハンナもその一人だ。「内戦でたくさんの人が殺され、多くの人が家を失い、全てを失いました。私の家も破壊され、今は借家暮らしです。当時は本当に悲しかったし、同時に憎しみを抱きました。でも、それではダメだと思い直しました。内戦が絶えないこの地域に、いつか平和が訪れることを信じて活動しています」 プロジェクト・コーディネーターの女性スタッフ、ファリーダがマラデカの活動を説明してくれた。「資金援助による避難民の生活再建支援、避難所の衛生環境改善のためのトイレ建設や衛生キットの配布、避難所における家族ごとのプライバシー保護のためのパーテーションの設置、そして避難民を受け入れているコミュニティでの仮設住宅建設です。内戦により精神的被害を受けた女性や子供の心理ケア、学校に行けなくなった子供への教育支援も大事な仕事です」
平和教育の重要性
「避難民の支援と並ぶ活動のもう一つの柱は平和構築です」。ハンナと同じく平和教育プログラム担当の女性スタッフは語る。 「私たちは地域で発生する紛争を解決していけるように、若者が過激派の思想に傾倒していかないように、そして宗教間や部族間の相互理解を深められるように、市民に対して教育を行っているのです。正直、平和を広げていくことは簡単ではありません。特にマラウィ市では内戦の影響もあり、日々の生活自体が大変で、希望を失っている人も少なくないからです。それでも、マラウィ市で実際に内戦が起き、多大な犠牲や被害が出て、改めて多くの市民が平和の大切さに気づいたと思っています」 ミンダナオ島で、彼女たちのような小さなNGOの存在感はまだまだ小さい。それでも彼女たちの活動がなければ、平和への道は歩めないのではないか。彼女たちの真剣な表情を見ながら思った。 ミンダナオ島は和平に向けた正念場を迎えている。 今年5月、フィリピン政府と反政府組織モロ・イスラム解放戦線(MILF)との間でミンダナオ島におけるイスラム地域の自治権を拡大する法案が可決された。従来のイスラム教徒自治区は廃止され、自治政府が樹立されることになる。長く内戦が続き、何度も和平が頓挫してきた歴史を持つミンダナオ島にとっては大きな変化であり、多くの市民が期待を寄せている。 ただ、こうした動きを手放しで喜べる状況ではないようだ。自治政府樹立が既得権益の喪失につながることを危惧し、いまなお法案に反対する人々がいる。テロ活動を続ける過激派組織も依然として残る。イスラム教徒が多く住む地域に眠る豊富な天然ガスや鉱物などの資源をめぐる争い。地域に根付くリドーと呼ばれる部族間紛争もある。平和を阻害する要因や新しい紛争の火種はそこかしこに存在している。