12年の女性宮家議論は一体どこへいったのか 成城大教授・森暢平
◇消費増税で弱体化 野田内閣の「沈没」 民主党政権は10月5日、「皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理」を公表した。結論は、女性皇族が結婚しても皇族の身分を保持するとともに、夫や子に皇族の身分を付与する案(Ⅰ―A案)、女性皇族が結婚しても皇族として身分を保持するが、夫や子には皇族の身分を付与しない案(Ⅰ―B案)が明記された。一方、尊称授与案は、門地差別を禁じた憲法第14条との関係から実施は難しいとしながら、Ⅱ案として、女性皇族が婚姻後、国家公務員として活動を支える案が新たに提案された。Ⅰ―A案、Ⅰ―B案が「本命」だが、保守派に配慮してⅡ案も載せる両論併記としたのである。 「女性宮家」議論にとって不幸だったのは、議論を主導した野田内閣与党、民主党が12年7月、消費増税をめぐり分裂したことだ。小沢一郎系議員が大量離党し、さらに五月雨(さみだれ)式に離党者が続いた。論点整理が出された10月5日の段階では、あと5人離党すれば衆院で過半数割れし、内閣不信任案が可決してもおかしくない状況に陥っていた。野田内閣が沈没寸前時の論点整理提出だったのである。 実際、12月16日に実施された総選挙で民主党は大敗した。新たに首相となった自民党の安倍晋三は13年1月30日の衆院代表質問で、「野田前内閣が検討を進めていたいわゆる女性宮家の問題については、改めて慎重な対応が必要と考えます。男系継承が、古来、例外なく維持されてきたことの重みを踏まえつつ、今後、安定的な皇位継承の維持や将来の天皇陛下をどのようにお支えしていくかについて考えていく必要があると考えております」と答弁し、安倍内閣は女性宮家を検討しないと宣言した。平成の天皇が希望していたことが明らかな「女性宮家」案は大幅後退したのだ。 そして、菅義偉、岸田文雄内閣下の皇位継承に関する有識者会議(21年)では、野田内閣下で議論された「女性宮家」問題はほとんど顧みられず、旧宮家養子案を中心とした議論が進むのである。