12年の女性宮家議論は一体どこへいったのか 成城大教授・森暢平
◇皇族確保を逆手に保守派が「尊称」案 同じ日、憲法学の日大教授、百地章も「宮家(世襲親王家)は、皇位継承権者を確保し、皇統の危機に備えるものであり、そもそも女性宮家など意味を持たない」と主張した。天皇を支える皇族が必要であるならば、「婚姻による皇籍離脱後も、特例として『内親王』『女王』の尊称を認め、直接陛下を公的に支えるシステムを構築すべきである」とも提案した。いわゆる「尊称授与案」であり、百地が関係する保守系団体「日本会議」が、旧宮家皇族の復活とともに提唱する案だった。皇位継承を先送りにして、天皇をサポートする皇族が必要という前提を逆手に取り、それならば、女性宮家ではなく尊称を授与して皇族に準じた活動を認めれば十分であるという論理だ。 結局、聴取は7月5日までに6回、計12人を対象に行われ、女性宮家に肯定的だったのは今谷、田原、山内のほか、▽憲法学の京大大学院教授、大石眞▽経済学の京大名誉教授、市村真一▽皇室制度史の静岡福祉大教授、小田部雄次▽日本法制史の京都産業大名誉教授、所功の7人。一方、明確に反対したのは、櫻井、百地のほか▽日本法制史の早稲田大教授、島善高▽憲法学の高崎経済大教授、八木秀次の4人である。日本政治史の慶應大教授、笠原英彦は中間的な意見だった。 議論が混乱したのは、ヒアリングにおいて問われたことが実は「女性宮家」の当否ではなく、「女性皇族に婚姻後も皇族の身分を保持していただく方策」についてだったことだ。ヒアリングする側である内閣官房参与(元最高裁判事)の園部逸夫は「女性宮家という言葉は、私は最初から使っていない。マスコミの方で広がり、女系天皇になるのではないかというようないいがかりを付けられて迷惑している。天皇陛下の大変な数のご公務を分担して減らすというのが最大の目的である」(3月29日のヒアリング)と述べた。建前を前面に出さざるを得なかったのだろうが、この曖昧さが、議論を錯綜(さくそう)させた面は否めない。百地の主張するとおり、天皇を支える皇族数の維持が目的なら、女性皇族に尊称授与して活動をしてもらえばいいという論理も成り立つ。