進むJ-POPのグローバル化。海外で日本のアーティストの活躍が加速している理由
アジアでのJ-POP人気がさらに拡大
ここまでは北米の話が中心だったが、アジアでのJ-POP人気もさらに拡大している。特に今年は東アジアからのニュースが目立った。 まず韓国。日本人アーティストのライブが大いに盛り上がった。3月、羊文学が韓国で開いた単独公演は、当初小さなライブハウスで予定していたところ、チケットが即完売したことからもっと大きな1000人規模のライブハウスに会場を変更した。King Gnuは2024年4月のソウルでの単独公演で4000人分のチケットが瞬く間に完売し、急きょ追加公演を決定。2日間で8000人のファンが集まった。 2024年11月には、韓国最大規模のJ-POPフェスティバル「WONDERLIVET2024」が3日間にわたって開催。ソウル近郊の国際展示場KINTEXで、優里やCreepy Nuts、キタニタツヤといった面々がロックバンドSilica Gelなど韓国の人気ミュージシャンと共演し、約2万5,000人余りの観客を動員した。 中国でも日本人アーティストの人気が高まっている。 Raise a Suirenや家入レオの上海公演がソールドアウト。他にも、King Gnuやずっと真夜中でいいのにといった日本のミュージシャンの中華圏での公演が続々と完売した。 コロナ後の再開以来、中国の動画配信プラットフォームであるYoukuやbilibili、音楽配信プラットフォームのQQ MusicやNetEase Cloud Music、ソーシャルメディアではInstagramに相当するRED、X(旧Twitter)に相当するWeiboなどがコロナ禍のステイホーム期間中に頻繁に視聴され、中国のユーザーが日本のアーティストのコンテンツに接触する頻度や再生回数が急激に伸びたという。中国の若年層がJ-POPを積極的に支持していることが窺える。 11月には浜崎あゆみが16年ぶりにアジアツアーを敢行し、上海でライブを行った。最初は2日の1公演だけの予定が、チケットが1分で売り切れて急遽、追加公演。その2日目の公演では、同会場における海外アーティストの歴代観客動員数を更新するという快挙を成し遂げた。テイラー・スウィフトやジャスティン・ビーバーなど欧米のトップアーティストの動員数を上回っての記録達成だ。 以上のように、海外で活躍するJ-POPのアーティストの動きは非常に活発化しており、ここに書ききれないくらいだ。XGのように、最初からグローバルな活動を前提としたグループも台頭している。来年のコーチェラ出演も決まっているXGはメンバー全員が日本出身ながら韓国に拠点を置いており、「J-POP」の枠組みで安易に語れない(本人たちも「J」でも「K」でもない「X-POP」と標榜している)。数が増えているだけでなく、海外との関わり方も多様化しているのだ。 現在の状況は、日本の音楽の質が上がって海外で受け入れられるようになった、といった前向きな話だけではない。若年層の人口減を受けてポップミュージックの消費者が減少していく中で、アーティストが海外に活路を見出すしかない、という経済状況も大いに関係している。 とはいえ、そうした苦境の中で実際に海外で活躍できるアーティストが増えていることは寿ぐべきだと思う。現在のJ-POPがただの日本発の商業音楽ではなく、国際的に多くのリスナーに向けた新しい文化的アイコンとしての地位を確立しつつあるのは事実だ。その中で、それぞれのアーティストはどのように音楽性を変化させ、新たな姿を見せていくのか。2025年も引き続き見つめていきたい。
伏見 瞬(批評家/ライター)