甲子園優勝の京都国際・小牧監督が明かす8年間継続するトレーニングの正体 「脳活性化プログラム」
【伸び悩みを打開するための一手】 京都市東山区の東福寺から急な坂道を上って約20分。緑に囲まれた小高い丘の上に校舎が立つ。敷地内に入るとすぐにグラウンドがあり、選手たちが黙々と練習に取り組んでいた。 グラウンドの横にあるプレハブ小屋が、野球部の監督室になっている。そこに、窓から選手たちの練習を見つめている小牧監督の姿があった。開口一番、「小学校の校庭かっていうぐらいしょぼいでしょ」と笑いながらコーヒーを差し出してくれた。 実際、グラウンドの広さは右翼60メートル、左翼70メートル。まさに「校庭」と思ってしまうほど、高校球児にとっては厳しい環境だ。そしてそれが、ライフキネティック導入のきっかけのひとつでもあったという。 「小さいグラウンドだと、できることが限られてしまう。チーム練習もなかなかできないので、内外野の連係ミスで試合に負けることもよくありました。いくら練習しても、越えられない壁みたいなものを感じていたので、野球以外の部分で選手たちに刺激を与えられるものがないか、模索するようになったんです」 そして2016年、もともと繋がりのあった京都市上京区にある「かもがわ整骨院」の院長・奥田剛氏が、ライフキネティックの公認トレーナーになったことを知り、すぐさま「お願いできませんか」と連絡。そこから週1回、60分間のトレーニングが始まった。
【"地道にコツコツ"が選手たちの武器になる】 奥田氏は元高校球児で、帝京高時代に甲子園3度出場、高校日本代表にも選出された。柔道整復師としても、京都市内の小中学生の野球選手を対象に肩・肘の検診を行なっており、選手の身体は誰よりも熟知している。 だが、小牧監督から連絡をもらった当時は、ライフキネティックの指導資格を取得したばかり。何十人もの部員に対して教えるのはもちろん、「最初は講習会で学んだことをそのままやっていた」と言うほど、メニューを考案するのもひと苦労。実際にトレーニングを実践するも、理解が追いつかないまま進めていた選手も少なくなかった。 加えて、ライフキネティックは効果を明確に数値化することが難しい。それでも小牧監督は、チームを変える可能性を秘めたプログラムを手放すことはなかった。 「たしかに目に見えてどう変わったのか、というのはわかりません。ベンチプレスで90キロが限界だったのが、ライフキネティックをすることで100キロまで挙げられるようになったとか、目に見える結果が出れば成長した感覚に浸れるんでしょうけど。ですが、なにごとも短期的にやっても意味がない。地道にコツコツ、毎週1回でもやり続けることが大事なんです。 また、日本人は『右にならえ』という風習が昔からあります。たとえば、2023年の夏の甲子園で慶応高校が優勝した際に、そこの練習を真似するチームがいてもおかしくありません。けれど僕に言わせたら、真似している時点で周回遅れ。つねに先を行かないと頂点を獲るなんてできません。 そういう意味でもライフキネティックは、日本の野球にはほとんど取り入れられていないプログラム。前例のない挑戦には不安が伴う反面、継続することで選手たちだけの武器となり、大きな自信にもつながります。具体的にどんな影響があるのかを言えないのがもどかしいですけど、プラスアルファは絶対にあると思っています」 実際に国内では、京都国際が導入する2016年から約8年、長期間定期的にライフキネティックを実施してきた高校はほかにない。まさに野球以外の新要素を選手たちに根づかせた、唯一無二のチームだと言える。 では、具体的にどんなライフキネティックのメニューを行なっているのだろうか。 後編につづく
佐藤主祥●取材・文 text by Sato Kazuyoshi