もっと知りたい北方領土(9)元島民の体験アニメ化 映画『ジョバンニの島』
終戦から71年経過しましたが、いまだに解決していないのが、不法占拠されたままとなっている北方領土の問題です。ことしは、平和条約締結後に歯舞群島、色丹島の引渡しを決めた1956年の「日ソ共同宣言」からちょうど60年の節目になりますが、まだ平和条約も、北方4島の返還も実現していません。そうした中、9月に行われた日露首脳会談で、12月にプーチン大統領の来日が決まり、領土交渉の進展が期待されています。 あらためて、北方領土とはどんな場所なのか、どのような自然や産業があったのか。どのような生活を送っていたのか。そして、4島をめぐる今の人々の思いなどを、紹介していきます。 第9回は北方領土について理解を深めながら娯楽作品として鑑賞できるアニメ映画『ジョバンニの島』(2014)を紹介します。
色丹島出身の語り部、得能宏さんの体験をもとにつくられた映画
北方領土のひとつ、色丹島斜古丹(しこたんとうしゃこたん)で生まれ育ち、戦後のソ連兵の上陸から2年あまりの混住生活を強いられた得能宏さん(82)=根室市光洋町、千島連盟援護問題等専門委員=の実体験をもとにした物語だ。原作・脚本は『北の国から』などで知られる杉田成道、声優陣には市村正親、仲間由紀恵などが担当している。 タイトルの「ジョバンニ」とは童話作家・宮沢賢治(1896-1933)の代表作『銀河鉄道の夜』の登場人物の名前。映画の主人公である兄・純平はジョバンニ、弟・寛太はカンパネルラになぞらえ、星降る美しい島を舞台に紡がれる物語のモチーフとなっている。北方領土問題の啓発活動に重きを置く作品と思いきや、随所に引用される賢治の詩的な言葉や純平の初恋のエピソードなどが盛り込まれ、心動かされる作品に仕上がっている。
映画の冒頭では、紺碧の海に望む起伏のある地形に高原植物が咲き乱れ、北方領土の周辺海域に生育する海鳥エトピリカが舞う美しい風景の中に純平と寛太が戯れる。戦禍がおよぶことのなかった幸せな島の人々は、戦後の玉音放送もどこか遠い国の出来事のように聴いている。「近いうちに米兵がやってくる」と口ぐちにうわさする人々の前に現れたのは、なぜかソ連兵たちだった。 初めてソ連兵に対峙したときの恐怖、目の前で行われる略奪行為、日々の食料の調達や今後、自分たちは先の見えない不安に駆られ行動する大人たち。しかし、子どもたちは置かれた状況がわからずとも、次第に心を開き、無邪気に交流しあう様子がたくましくも微笑ましい。 「色丹島は映画の中にあるように自然がとってもきれいだよ。実際にあった話なんだよ。これは思春期の大事な頃の話さ。ソ連から来た女の子と一緒に勉強して、気持ちが一緒になった。ずいぶん助けられたりしたよ」と感慨深げに話す得能さん。日本全国各地の学校で開かれる上映会に、得能さんは語り部として招かれることもあり、今では「ジョバンニのおじさん」と呼ばれていることも。内閣府および北方領土問題対策協会では、2016年度より学校単位での非営利上映会でのDVD使用料を負担するなどの対応をしている。詳細は北方領土返還要求都道府県会議または各都道府県の教育者会議まで。 ■■作品情報■■ 『ジョバンニの島』 上映時間:102分 監督:西久保瑞穂 キャスト:市村正親、仲間由紀恵、柳原可奈子、ユースケ・サンタマリア 他 発売元:日本音楽事業者協会 販売元:ポニーキャニオン 価格:DVD¥4700(本体)+税、Blu-ray¥6800(本体)+税 (レンタルも有)