松下洸平が『光る君へ』で担った壮大な“if” まひろが走り続けた物語の終幕に寄せて
NHK大河ドラマ『光る君へ』第45回で須磨の海岸を走るまひろ(吉高由里子)を観ていて、そういえばまひろはよく走る少女だったと思った。 【写真】『最愛』では幸せな結末となった梨央(吉高由里子)と大輝(松下洸平) 第2回において「縛られても、必ず縄を切って出ていきます」と父・為時(岸谷五朗)に告げ、乙丸(矢部太郎)の目を盗んで町に向かって走り出す彼女を思い出す。あの頃、彼女の運命は、いい方にも悪い方にも、彼女が走ることによって動いていった。そして今、かつて「自在に空を飛んでこそ鳥」と言ったはずの道長(柄本佑)の静止を振り払って、自由な鳥・まひろは、「紫式部の人生を描く」という本作の枠組みすら軽く飛び越え、この先訪れる武士の時代を予感させる人々の集う太宰府に訪れ、さらには一大事件「刀伊の入寇」のど真ん中をひた走っていく。そして周明(松下洸平)と手を取り合ったと思ったら、彼に刺さった弓矢の音が、私たち視聴者を現実に引き戻していった。 鳥のように自由で、どこにでも行けるはずなのに、結局は元の所に戻ってしまうのが『光る君へ』の主人公・まひろの人生のような気がする。それは宿命というものなのか。彼女が書いた『源氏物語』が書き続けた通り「人の一生はむなしい」からか。いや、彼女自身が結局は望んでしまうからとしか言いようがない。 あまりにも一途すぎる2人。「民が幸せに暮らせる世を作る」というまひろとした約束を、実資(秋山竜次)に意見されようとも頑なに口にし続ける道長。「私が私であることの意味」である、生涯を懸けて取り組んだ「書くこと」を「与えてくれた」のは道長であり、今は何かを書く気力も沸かないと、20年ぶりに再会した周明に打ち明けるまひろ。互いの身体が磁石のように、離れたいと願っても、離れることを許されない。他の追随を許さない、圧倒的な純愛である。 でも、まひろがふと違う人生を夢見て、遠い場所に旅に出る時、その先にはなぜかいつも周明がいた。第21回で「今度こそ、越前の地で生まれ変わりたいと願っている」と道長に言って別れた後、父・為時について越前に行った先で出会った周明。まひろと「左大臣」道長との関係を察して彼女を利用しようとしたためにその関係は立ち消えになったが、後の夫となる宣孝(佐々木蔵之介)に危機感を与え、急いでプロポーズをさせるほどには仲睦まじい姿を見せていた。20年ぶりの再会を喜ぶ第46回の2人もそうだ。苦い思い出は不問にして、かつてのように語り合い、笑い合う2人の姿は、20年前と一見何も変わらない。