松下洸平が『光る君へ』で担った壮大な“if” まひろが走り続けた物語の終幕に寄せて
松下洸平×吉高由里子に見てしまう『最愛』の残像
第24回終盤、「入りこめませんでした。あの女の心に」という周明に、朱(浩歌)が「お前の心の中からは消え去るとよいな」と返していた。自分のことを「本当の1人ぼっち」だと言う周明の心の中に、まひろはずっといたのだろうか。まひろを見つめる眼差しの端々に愛情の欠片を見てしまうのは、そこに2人が演じたドラマ『最愛』(TBS系)の梨央(吉高由里子)と大輝(松下洸平)の残像を見てしまうからだろう。 第46話において、まひろと周明は並んで月を眺める。でも、道長の出家話を聞いて彼のことが心配でならないまひろは、月を通して遠く離れた場所にいる道長を見ている。隣の周明は月を眺めつつ、そんなまひろの横顔を見つめる。次の場面で映し出される道長もまた、いつものごとく月を見ていて、きっとその思いの先にはまひろがいる。そしてその傍らには倫子(黒木華)がいる。遠い場所にいてもしっかりと繋がっている2人と、隣にいても孤独な2人の構図がなんとも切ない。 本作にとって、恐らくまひろにとって、周明は、壮大な「if」だ。つかの間、全てを捨てて、自由を夢見て駆け抜けた先にいつもいる存在。登場するたび、まひろにとって「あるかもしれない、もう一つの人生」を視聴者に想像させずにはいられない。でも結局まひろは道長のことばかり考えていて、やれやれと思わされるのだけれど。もし、海賊との戦いに巻き込まれなかったら「松浦に行って思いを果たし、大宰府に戻って」きて周明の「話したいこと」を聞くまひろの姿があったのだろうか。彼の言う通り「紙と筆と墨があれば、書くことはどこでもできる」のだから、大宰府に「いたいだけ、いて」周明と過ごす人生もあったはずだ。もし、弓矢が飛んでこなかったら。周明から差し出された手をとって、そのまま駆け抜けていくまひろの姿を想像する。光る君に愛されたために人生そのものを翻弄された『源氏物語』の女性たちと違って、まひろは本来自由なのだから、どんな人生も許されるはずだ。 残すところ2話となった大河ドラマ『光る君へ』。双寿丸(伊藤健太郎)や周明、そして20年前に亡くなった友人・さわ(野村麻純)といった、ふいにいなくなった仲間たちと思わぬところで再会し、近況を確かめ合う終盤かと思いきや、第47回の副題は「哀しくとも」。生きている限り受難は続く。まひろの人生はいつも一筋縄ではいかなくて、ちょっとばかり厄介で、私たちの人生に似ている。書くこととは。愛することとは。生きることとは。答えの先を見届けたい。
藤原奈緒