開幕戦で通算1000得点を挙げた五郎丸がブームに流されない理由
バラエティー番組で「助走の際、心のなかでドレミファソラシドと唱えている」と明かしたために「後ろでドレミファソラシドと言っているおじさん」の声を耳にした。胸の前に手を合わせるだけで、大量のフラッシュが焚かれた。黄色い声援を浴びた。それでもこうだ。 「これから(ゴールキックを)外せないプレッシャーを受けることになると思う。それも楽しみながら、皆さんに何かを感じてもらえたら。ジョージア(日本代表としての欧州遠征)では目にレーザーを当てられてことがある。フラッシュなんて、かわいいものです」 以後のゴールキックの機会は、すべて成功させる。9分のコンバージョンゴールを通算1000得点目とし、「(特別な感情は)ないですね」。すぐさま直後の試合展開に神経を尖らせ、15分には正面からのペナルティーゴールを確実に決めた。前半は15-3とリードを保った。 清宮監督にはこう言わしめた。 「行動、発言。世界で活躍するにふさわしい男になったと思います」 後半2分にもペナルティーゴールで加点した。ボールが回るなかでは、長短、高低を織り交ぜたキックで陣地を獲得した。フォワード(スクラムやモールに注力)に強みを持つチームの雨中の戦い方に即し、「最大のパフォーマンスを発揮できた」ようだ。 「雨の日はエリアを取るのがセオリー。ロングキックでフォワードを前に出す。観ている方にとっては面白くないかもしれないですが、勝つことが大事なので」 対するトヨタ自動車は、五郎丸ら特定の選手への対策より、自分たちの用意した戦略術の出力を意識。後手を踏んだセットプレーを修正するなかで、ボールの保持率を高めてゆく。 反則を重ねて18-11と差を詰められたヤマハだったが、最後は、勝ち切った。五郎丸は言った。 「選手にとって開幕は特別。気持ちも高ぶりすぎてコントロールできないところもある。そこで勝てたことは、次につながる。課題は出たと思いますが、1つひとつつぶして次に進んでいきたい。ネガティブなことを言っても、しょうがないです」 国民的な「ヒーロー」の出場試合に際し、日本ラグビー協会は取材者数を制限。個別の選手としては異例の単独記者会見をおこない、それ以外の五郎丸のインタビュー対応は受け付けないとした。寒風吹きすさぶグラウンドの正門前では、多くの子どもたちが出待ちをしていた。「ラグビーにヒーローはいない」を持論とする五郎丸だが、当面は「ヒーロー」として注目されそうだ。 「もっとも観に来たいお客さんが足を運べるようになって、選手もファンもハッピーな形で試合を迎えられたらいいと思います」 次戦は21日、豊田自動織機を迎え撃つ。場所はホームグラウンドの静岡・ヤマハスタジアムだ。「時の人」は言葉を選びつつ、「(観客席を)満員にしたい」との思いを明かした。 (文責・向風見也/ラグビーライター)