自動車メーカーの日本事業、難しさ増す舵取り 母国市場の生き残りは数年がヤマ
自動車メーカーが国内事業で難しいかじ取りを迫られている。代替需要が中心の国内市場に振り向けられる経営資源には限りがあるが、開発や生産拠点が集積するだけに、衰退一方では国際競争力の低下につながりかねない。虎視眈々(こしたんたん)と市場参入をもくろむ中国などの新興勢も脅威だ。投資効率を高めながらいかに国内事業を〝強靱化〟していくか。製販一体となり、前例にとらわれない自己変革も求められる。 昨年12月5日、全国の系列販社のトップを集めた説明会で、ホンダの三部敏宏社長は、国内ラインアップに占めるグローバルモデルの比率を高める長期ビジョンを示した。具体的な話は避けたが、参加した系列販社の社長は「どこかのタイミングで軽やミニバンといった国内専用車から手を引く方針と受け取った」と厳しい表情を浮かべる。 国内に特化したモデルや国内生産車が減少する理由は市場の縮小にほかならない。日本の新車市場は現在450万台前後で推移する。ピークと比べて4割ほど減ってしまった。北米や中国、インドなど海外販売が伸びていることもあり、グローバル販売に占める国内の比率は各社とも減少の一途をたどる。ホンダに限らず、日本に特化したモデルの数は減り、現在は軽自動車やミニバンくらいになった。 代わりに存在感を高めるのが海外で生産したグローバルモデルだ。ホンダは中国製の「オデッセイ」やインド製「WR―V」、タイ製「アコード」など海外生産車の輸入販売を本格化している。今年はタイ生産の「CR―V」を発売する見通しだ。 三菱自動車も24年に発売した「トライトン」を皮切りに東南アジア生産車の国内導入を進めていく方針。スズキが昨年10月に発売した「フロンクス」もインド生産車だ。 WR―Vの開発責任者を務めたホンダの金子宗嗣氏は「日本のニーズを織り込んで作ればグローバルモデルでも十分戦える」と話す。実際、WR―Vやフロンクスは、競合他車と比べて割安感があるためか販売は好調だ。 ただ、販売現場では「道路事情や細かい作り込みなど、日本のニーズにあった商品をもう一度増やしてほしい」という声も根強い。国内ニーズに合わずに海外生産車の販売が落ち込めば、日本向け新型車の優先度がさらに下がるといった悪循環を危惧しているためだ。 商品戦略の変化とともに、大きく動き始めているのがメーカー主導の販売ネットワーク戦略だ。スバルは今年4月から来年4月にかけ、33社ある直営販社を10社に集約する。ホンダも24年4月に南関東、東北、九州の3地区の直営販社をそれぞれ統合し、1ブロック1社体制に移行した。マツダの毛籠勝弘社長も「事業構造、マーケティング、店舗網、リテールオペレーションを覚悟をもって再構築していく」と語る。 地場系販社もこうした動きと無縁ではない。他社に比べて法人数が多いホンダは、26年度にかけて大規模な統廃合を進める構想を持つ。バックヤードの効率化などで将来の投資に耐えられる財務基盤づくりを促す狙いがある。 今後の焦点は拠点展開だ。ここ10年間で国内の新車市場は約15%縮小したが、日系メーカーの拠点数は1万3千拠点とほとんど変わっていない。保険やアフターサービスなどバリューチェーンの強化で新車販売だけに頼らない収益構造を築けたためだ。しかし、市場縮小がさらに進めば保有客自体が減り、整備士などの人手不足も相まって全てのフルサービス拠点を維持できなくなる公算が大きい。 一方、25年には比亜迪(BYD)に続いて吉利汽車傘下のZEEKR(ジーカー)も日本に参入する見通しだ。拠点数が減り、本来は強みであるアフターサービスを十分に提供できなくなれば、新興勢にシェアを奪われかねない。