これからインフレと好調な雇用市場はどうなるのか
■2024年の先行きは依然として不透明 2023年の世界経済は、多くの意味で予想以上に好調だった。米国は景気後退を回避しただけでなく、安定した成長を続けている。失業率は低水準で推移しているし、何より重要なことに、世界の多くの国でインフレが収まりつつある。 しかし、経済の先行きは依然として極めて不透明だ。利上げはじわじわと経済全体を痛めつけ、戦争は世界中で大惨事を引き起こし、自然災害はますます日常的に起きている。世界経済の向こう5年間の成長見通しは、かつてないほど悪化している。 2024年のマクロ経済は、引き続き困難で不透明感が強いだろう。だが、新しい年になり、すべてのビジネスリーダーが注視すべき重要なテーマと問いがある。本稿は、米経済に焦点を当てているが、これらの同じ問いは世界の多くの国に当てはまるだろう。 ■インフレは収まったのか 2022年6月、米国の消費者物価指数(CPI)は前年比9%強のピークをつけた。それ以降は急激に減速し、2023年11月は3.1%まで落ち着き、FRBが明言する物価目標の2%からさほど遠くなくなった。 では、インフレは収まったと言ってよいのか。楽観論の背景にあるのは、まず、家計支出の最大の割合を占める家賃だ。家賃の上昇ペースは物価ほど落ち着いていないが、米国では賃貸住宅のほとんどが1年契約のため、その変動が統計に表れるには時間がかかる。更新時期を迎える賃貸契約が増えるに伴い(そして新たな賃料が横這いか小幅な上昇に留まれば)、CPIはますます下がる可能性がある。この考え方によれば、インフレはしかるべき水準にほぼ落ち着いており、統計に表れるのに時間がかかっているだけだ。 だが、米国のインフレはまだ「そこまで」収まっていないと、経済アナリストでニュースレター『オーバーシュート』の執筆者であるマシュー・クラインは言う。「2021~2022年の著しい物価上昇のほとんどは、コロナ禍とコロナ禍への対応、そしてロシアのウクライナ侵攻という一過性の出来事が原因でした。そのインパクトは、2022年半ばにピークを迎え、その後は薄れてきています」とクラインは言う。しかし、このように続ける。「総合的な物価上昇のペースは、コロナ禍の前よりも高いままです。これは賃金と支出(ドル)の上昇がやや加速しているためです。根底の消費支出が名目で年7%拡大しているのであれば、年2%のインフレ率を長く維持するのは難しいでしょう」 米連邦準備制度理事会(FRB)は、2024年は政策金利を据え置くだけでなく、複数の利下げを行う可能性まで示唆し、かなり楽観的なトーンで2023年を終えた。しかし、その道筋は確定しているわけではなく、変わる可能性もあるとハーバード・ビジネス・スクール(HBS)教授のミヒール・デサイは言う。「大幅な景気後退がない限り、インフレ率が最終的に2%に落ち着くまでには、一般的に考えられているよりも長くかかり、ジグザグや後退も多数だろう」と彼は言う。「よくいわれるように、最後の1キロが一番長く感じられるものだ」 欧州では、ウクライナ戦争がエネルギー価格に劇的な影響を及ぼしており、欧州中央銀行とイングランド銀行(英中央銀行)は依然として、金融引き締めに傾いた発言をしている。 ■雇用市場の歴史的な絶好調も終わるのか この2年間で最も議論になった問いの一つは、物価上昇を抑えるために失業率の上昇を避けられないのか、だった。幸い、失業率はさほど上昇していない。 「いまも米国で仕事を見つけるには、歴史的に最高の時期の一つだ」とクラインは言う。「1990年代後半のピーク時には及ばないが、働き盛りの人の割合は過去最高に近い状況にある。フルタイムで働きたいのにパートタイムで働いている人の割合は、過去最低の水準だ」 労働市場は、少なくともやや冷え込んでいる。リンクトインによると、新規雇用数はこの1年で大幅に減少し、失業者1人当たりの求人数も減少している。ただ、いまのところ、米国の失業率は比較的低いままだ。『エコノミスト』誌は、米国と欧州の長期的な雇用見通しは力強いとしている。