これからインフレと好調な雇用市場はどうなるのか
■金融市場は高金利に対処できるか シリコンバレーバンク(SVB)が、典型的な取り付け騒ぎに見舞われて経営破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入ったのは2023年3月のこと。利上げによって債券ポートフォリオの価値が下がり、バランスシートが急速に悪化したことに、顧客が怖気づいたのが原因だった。すぐにシグネチャー・バンクとファースト・リパブリック・バンクが同じような運命をたどった。高金利は経済全体に波及し、債券保有者のバランスシートを悪化させ、借入コストを上昇させている。これは2024年の金融市場の不安定化要因となるのか。 「利上げの影響はまだ続く(いまも起こっている)。ただ、予想されていたよりもスローモーションで起きている」と、デサイは言う。「つまり経済が急にストップするのではなく、ローリングストップ(車輪は回っていないが、車自体は完全に止まっていない状態)になるだろう。なぶり殺しといったほうが近いかもしれない。あからさまに破壊的ではないから、認識されないが、財政措置や金融措置を取る余地が限られているため、より長く続き、抜け出すのが難しい」 米国では2023年、企業倒産件数が急増したが、それでも世界金融危機の時よりはずっと少ない。 「多くの企業が変動金利の債務を抱えており、どこかの時点で苦しくなるかもしれない。一部のレバレッジドバイアウトが返済に苦しんでいるという話も聞く」とクラインは言う。「だが、オーストラリアやカナダ、欧州、英国など、米国よりも短期借り入れがはるかに多い国の経験を見ると、力強い成長があれば金利コストの拡大を吸収できるようだ。一部の企業は苦しむだろうが、経済全体への影響はそれほど大きくないかもしれない」 ■それ以外に2024年に注目すべきこと クラインは、ほかに注目していることについて次のように語った。 中国が大きなワイルドカード(不確定要因)だ。ゼロコロナ政策が終わって、2023年は個人消費が急増し、それまでの渡航制限で抑えられていた原油価格も急騰すると思われていたが、そうはならなかった。これはマイケル・ペティス(北京大学光華管理学院教授)と私が共著Trade Wars Are Class Wars(未訳)で説明した長年の構造的問題や、政府が引き続き不動産部門に目を光らせる意向のためだ。 中国政府は、製造業の設備投資に力を入れる方針に転換したようだ。それも、最近まで国際的競争力のなかった領域で、圧倒的な支配力を持つ輸出国になるつもりでなければ、説明がつかないほど大規模な投資といえる。これがどのようなことを引き起こし、他の先進国にどのような影響を与えるかは非常に重要だ。破壊的な影響を及ぼす可能性もある。 一方、デサイは次のように語った。 2023年秋以降の財政政策に関する警告のサイン(長期金利の上昇)は煙幕だったのか、それとも不吉の予兆だったのか。 株式市場の集中は、どのように解消されるのか。拡大か、それとも最終的には致命的な縮小が訪れるのか。AI(人工知能)は、予想されるように猛烈なスピードで変革をもたらすのか。そうでない場合、AIの影響で株高がもたらされ、金融環境の引き締めが起きるのか。 中国経済が衰退とインドが台頭するというシナリオは実現するのか。そうだとすれば、それは世界の政治と経済をどう変えるのか。 2024年も政治が経済の先行きを不透明にする最大の原因となるだろう。11月の米大統領選は、地政学、貿易、そしてウクライナと中東での戦争に、予測不可能な影響を及ぼす可能性がある。 アトランティック・カウンシル地経学センターのシニアディレクターであるジョシュ・リプスキーは、最近のニュースレター(筆者も編集に関わっている)で、経済にとって最大のリスクについて次のような見解を示している。 中国が不正確な統計を発表して成長の失速を隠していること、世界の大手海運会社が紅海ルートを取りやめたこと、南米で2番目に大きな経済大国がデフォルト(債務不履行)の危機にあること。目立つリスクだけでもこれだけある。 米国の経済見通しは1年前よりよくなっているとはいえ、過去3年ほど続く不透明感の多くは消えていない。 こうしたリスクは現実的なものであり、数多く存在する。リプスキーは、2024年の経済をジェンガ(木のブロックをタワー状に積み上げるバランスゲーム)に例えた。「上のほうを見ると、高くてしっかりした塔に見えるが、下のほうや側壁を見ると、多くのピースが欠けていて、構造を空洞化させていることがわかる。そのようなタワーがいつまで不安定に耐えられるかわからない」 "What to Expect from the Global Economy in 2024," HBR.org, December 27, 2023.
ウォルター・フリック