J2横浜FC浮上の裏に「雑草ルーキー」と「現役大学生」
右の翼が羽ばたけば、競い合うように左も羽根を大きく広げる。逆のパターンも然り。9つの白星を含めて11試合連続負けなしをマークし、4位にまで順位を上げてきたJ2の横浜FCに群を抜く縦へのスピード、タフネスさ、そして決定力が搭載された力強い両翼が生まれた。 右サイドサーフは専修大学から加入したルーキーの中山克広(23)。左サイドハーフには来シーズンからの加入が内定している仙台大学4年生で、JFA・Jリーグ特別指定選手として6月に承認されたばかりの松尾佑介(22)。鹿児島ユナイテッドFCに5-1で圧勝した24日の明治安田生命J2リーグ第29節で、若き両翼がゴールとアシストで派手に共演。ホームのニッパツ三ツ沢球技場を熱狂させた。 口火を切ったのは中山だった。前半17分に相手キーパーのパスミスを拾ってそのままドリブルを仕掛け、迷うことなく左足を一閃。2試合連続のゴールでチームに先制点をもたらした。 「正直、ラッキーでしたね。たまたまいいところにボールが転がってきたこともあって、キーパーの立ち位置を見ながら、空いていたのが見えたファーサイドへ、タイミングをうかがいながら流し込もうと決めていたので。入ってよかったです」 7分後には松尾が続く。右サイドを縦へ抜け出した中山が、低く鋭いクロスをゴール前へ送る。ゴール中央へ飛び込んできたエースストライカーのイバ(34)につられるかたちで、左サイドへこぼれてきたボールを詰めてきた松尾が左足で泥臭く押し込んだ。 「カツ君(中山)がクロスを上げるのはわかっていたので、ちょっとマイナス気味の位置から走ったらちょうどいいところにボールが来たので。(逆サイドに)しっかり入る、というのはチームの約束事みたいな形で、いつも『入っていこう』と言われていたのでよかったです」
前半34分には左サイドを抜け出した松尾がイバのゴールをアシスト。1点を返されて迎えた後半17分には、ボランチで新境地を開いている松井大輔(38)からパスを受けた中山が、ペナルティーエリアの右角あたりから思い切って右足を振り抜く。相手ディフェンダーに当たってわずかにコースを変えたシュートは、キーパーと右ポストのわずかな間をすり抜けてゴールネットを揺らした。 「いままでの僕だったら、あの場面ではシュートを打たなかったと思うので。かなり自信がもてたというか、吹っ切れたというか。打てば何かあるだろう、という考えがどんどん出てきている。すごく大きく進歩しているんじゃないか、と思っています」 中山と松尾が初めて先発でそろい踏みしたのが、わずか1か月半前の7月6日の東京ヴェルディ戦。今シーズン途中の5月にヘッドコーチから昇格した、下平隆宏監督(47)が採用した[4-2-3-1]システムでキーマンを成す「3」の左右で、2人は瞬く間に必要不可欠な存在へと昇華した。 「サイドバックにボールが入ったら、僕と松尾が縦に走って相手の最終ラインの裏を取る、というのがあるので。アイツが点を取ったら僕も、という秘めた闘志がお互いに燃えてくるところがありますね」 こう語りながら笑顔を浮かべた中山が、待望のプロ初ゴールを決めたのが今月4日のアビスパ福岡戦の後半32分。わずか5分後には松尾も初ゴールを決めた。前節のFC琉球戦では松尾が前半22分に勝ち越し弾を、中山が同アディショナルタイムにダメ押しの3点目を叩き込むなど、直近の4試合で3度もアベックゴールを決めている。 シンプルなパス回しから、スピードを生かして左右の両サイドから攻める。下平監督が掲げる青写真を具現化させた2人は、順風満帆に横浜FCで邂逅したわけではなかった。 小学生年代のスクールから横浜FCでサッカーを学んだ中山は、ジュニアユースからユースへ昇格できなかった。麻布大学附属高校から専修大学へ進んだ7年間で小さかった体も成長し、同時にスピードとスタミナもアップ。一度は扉を閉ざされた横浜FCからのオファーを勝ち取った。 「ユースに上がれなかったときは、正直、悔しさはありました。ただ、身長も低かったし、技術面でも上へ行けるようなレベルではなかったので、仕方なさも自分のなかにはありました。なので、見返してやろう、と。オファーは素直に嬉しかったですね。横浜FCに恩返しができるチャンスができたので」 まさにどん底からはい上がってきた中山と同じような道を、松尾も味わわされてきた。浦和レッズのジュニアユース、ユースと歩みながらトップチームには昇格できなかった。捲土重来を期して仙台大学へ進み、スピードに乗ったドリブルを武器に、1年生からレギュラーを奪取。3年時から横浜FCの練習に参加し、来シーズンからのプロサッカー人生を勝ち取った。 「レッズでは(トップチームへ)上がる雰囲気すらなかったですね。ただ、あまり悔しいとは思わなくて、当たり前だったというか、あのときの自分では無理だというのはわかっていたので、大学へ行ってチャンスをつかみたいと思っていました」 こう振り返る松尾は、特別指定選手としてひと足早くプロの舞台を経験し、結果を残していても決して満足しない。ドリブルで突っかけすぎた場面があったと、鹿児島戦後も反省を忘れなかった。