村上春樹「ミック・ジャガーが80歳になってもバリバリの現役でステージに立って熱唱しているなんて、10代の僕には想像もできませんでした」
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。10月27日(日)の放送は「村上RADIO~ローリング・ストーンズ・ソングブック~」をオンエア。1組のアーティストに焦点を当てて特集する「ソングブック」シリーズの第5弾は、1962年の結成以来、音楽史にその名を残し続けるロックバンド、ローリング・ストーンズを特集しました。 この記事では、後半1曲とクロージング曲、今日の言葉について語ったパートを紹介します。
◆Melanie「Ruby Tuesday」
「ルビー・チューズデイ」も忘れがたい曲ですね。1967年にシングル・カットされて、アメリカのヒット・チャートでは1位を獲得しています。ストーンズって最初のうちは、口当たりのいい、いわゆる「リバプール・サウンド」に比べて「かなり乱暴なバンド」っていう印象があったんだけど、この頃になると「へえ、こういうのもちゃんとできるんだ」みたいな穏やかな優しい曲を発表し始め、一般的な人気も獲得していきます。とはいえ本質はやはり「かなり乱暴なバンド」なんですけどね。 メラニーが歌います。「ルビー・チューズデイ」
<クロージング曲> Don Patterson「(I Can’t Get No) Satisfaction」
今日のクロージング音楽はジャズ・オルガン奏者ドン・パターソンのトリオが演奏する「(I Can’t Get No) Satisfaction」です。 ローリング・ストーンズ・ソングブック、いかがでしたでしょうか? 今日おかけしたのはみんな、もう半世紀以上も前に作られた音楽なんですが、今聴いても心をリアルタイムで揺さぶってくれます……と僕は思うんですが、若い人たちはどう感じるんでしょうね? 感想を聞きたいところです。 しかし、ミック・ジャガーが80歳になってもまだバリバリの現役でステージに立って「サティスファクション」を熱唱しているなんて、10代の僕には想像もできませんでした。キース・リチャーズが元気に長生きするなんてこともね。 * 今日の言葉は、「ローリング・ストーンズ特集」に合わせて「転がる石には苔がむさない」です。英国のことわざで、原文は「A rolling stone gathers no moss」。 この言葉には2種類の意味あいがありまして、もともとは「仕事をコロコロ変える人は大成しない。人生には忍耐が必要なんだ」という、いかにも英国風の意味だったのですが、アメリカに渡ってからは「活発に自己ポジションを変えていく人は古くさくならなくてよろしい」というニュアンスで、転がることが肯定的にとらえられることが多くなりました。イギリス人は苔が好きで、アメリカ人はあまり苔がすきじゃないのかもしれないですね。国民性の違いかもね。 そういえば日本の国歌にも「苔のむすまで」という一節があります。うーん、日本人はきっと苔が好きなんでしょうね。苔が出てくる国歌なんて、世界中、他にはないんじゃないかな。僕も苔は割に好きです。アイスランドは緑の苔だらけの国で、旅行していてとても楽しかったです。 もし僕が石だったら、あまり転がらないでなるべくじっとしているかもね。 それではまた来月 (TOKYO FM「村上RADIO~ローリング・ストーンズ・ソングブック~」2024年10月27日(日)放送より)
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