バイデン氏の「ごみ」失言、トランプ氏にとって大きな後押しか
ハリス氏に新たな政治問題
この直近の展開が、大荒れの大統領選の最終結果にどのような影響を及ぼすかは誰にも分からない。しかし選挙戦最後の1週間では、数語の不正確な言葉でさえも重大な政治的結果をもたらす可能性がある。そこではバイデン氏が実際に何を言わんとしたかは問題にならないだろう。発言がどのように受け止められたかが全てだ。 ハリス陣営がトランプ氏のマジソン・スクエア・ガーデンでの集会に注意を引きつけたがっているまさにその時、バイデン氏が政治的混乱を持ち込んできた。これでハリス氏も、トランプ氏の支持者らを「ごみ」と考えているのかどうか尋ねられるのはほぼ間違いない。ハリス氏が回答しても、この件がさらに尾を引くだけだ。トランプ氏はさらに失言を利用して、民主党が勤労者階級の保守的な米国人を軽蔑しているとの主張を展開する公算が大きい。 寄付を呼び掛けるトランプ氏の29日夜の電子メールにはこうある。「最初にヒラリーがあなたを嘆かわしい者と呼んだ!次に彼らはあなたをファシストと呼んだ。そしてついさっき、カマラのボスのバイデンがあなたをごみと呼んだ!」 トランプ氏の支持者への軽蔑と取られるバイデン氏のコメントは、ハリス氏が党派を超えた結束を呼び掛けるタイミングにも重なった。ハリス氏は29日、首都ワシントンでの集会で、共通の基盤と常識に即した解決策を模索し、人々の人生をよりよいものにすると約束していた。その上で、自分はトランプ氏とは異なり、意見の違う人たちを敵とは見なさないと強調。トランプ氏は意見の合わない人を刑務所に入れたがるが、自分はそうした人に椅子とテーブルを用意すると述べた。
クリントン、オバマ両氏の警告
民主党の二人の元大統領、ビル・クリントン氏とバラク・オバマ氏は、民主党全国委員会(DNC)の中で活動家たちに対し、トランプ氏と政治的に戦いつつ同氏の支持者を軽視しないよう求めていた。 「彼らの面目をつぶしてはならない。(中略)敬意を払って扱いなさい。自分がそうしてもらいたいと思うように」(クリントン氏) 「我々は相手側を叱責(しっせき)し、辱め、大声で言い負かすことが勝つための唯一の方法だと考え始める。するといずれ一般の人々は全く耳を傾けなくなり、投票になど一切行かなくなる」(オバマ氏) ただバイデン氏をはじめとする民主党側の舌禍も、トランプ氏がしばしば発する品性を欠いた、不安定なコメントに比べれば物の数ではない。トランプ氏は最近、選挙集会の冒頭で伝説的プロゴルファー、故アーノルド・パーマー氏の裸体について下品な発言をした。 また29日には、ペンシルベニア州ランカスター郡で既に民主党が選挙不正を行っているとする誤った主張を展開した。発言の重大さという点で、この内容はバイデン氏の軽率なコメントを上回る。 しかし、16年のヒラリー・クリントン氏によるコメントの結果が示すように、不正確な発言やそれとなく相手を見下す言い回しは、選挙戦終盤の候補者と陣営にとって命取りになりかねない。支持率で拮抗(きっこう)する戦いは、激戦州でのほんの数千票で決着がつく可能性もある。ハリス氏にもトランプ氏にも、失言をしている余裕はない。 自身の集会で飛び出したプエルトリコへの中傷のおかげで、トランプ氏はペンシルベニア州の重要な選挙区にいるプエルトリコ人有権者の怒りを静める対応に追われた。同氏はかねて、この選挙区における民主党票の取り込みを狙っている。