レンタサイクルが広がる現代 元自転車レース日本チャンプが語る「サイクリングのメリット」
身近な移動手段である自転車。近年は街中にレンタサイクルをよく見かけるようになり、より手軽に利用できるようになった。今回は1990年にロードレースの全日本チャンピオンとなり、東京2020オリンピックでは日本代表チームの監督も務めた浅田顕さんを取材し、サイクリングのメリットについて聞いた。 【フォト】浅田さんの学生時代・現役時代の貴重な写真
競技者、一般ユーザーともにメリットあり
――本格的な競技を目指さずとも、サイクリングをすることはおすすめですか? 「はい。誰にでも始められるものですし、健康への入り口として良いものだと思います。もちろん一般道を走るので、安全第一で乗ることは前提になります」 ――普通に走るよりも効果は高いですか? 「ダイエット効果はもしかするとランニングのほうが高いかもしれないですが、自転車のメリットは体への衝撃やダメージが少ないことです。ランニングは普段運動していない人がいきなり行なうと、ヒザや腰の痛みを引き起こす可能性もありますが、自転車であれば関節への負担が少なく、ランニングと同じ運動強度でも長く続けられるメリットがあります」 ――競技パフォーマンスアップという視点ではいかがでしょうか。 「筋力と心肺機能の両方を強化できます。ランニングは体への衝撃が大きいので、全体のトレーニングボリュームを増やすために自転車を取り入れる選手もいます。たとえば、フルマラソンを走って持久力を上げようと思ったら筋肉への負荷が大きいですが、自転車で同じ強度のトレーニングをすれば、体へのダメージを抑えたうえで心肺機能を維持したり、高めたりすることができます。ケガ明けにも自転車でのトレーニングは活用できますね」 ――競技力向上以外の視点でも有効ですか? 「個人的に外で季節を感じながら風を切って走るのは、何よりも気持ちのいいことなので、そこが一般の方にとって何よりおすすめですね。河川敷でもいいですし、車や歩行者があまり来ないような道であれば、自分と向き合う時間ができたりもしますから」 ――車種はどんなものを選ぶと良いでしょうか。 「まずは自宅にある自転車でいいと思います。自宅周辺の走りやすい道を走ってみて、しっくりくれば次はスポーツ車に乗ってみようという感じでステップアップしましょう。ママチャリだと腿に効いてしまって脚がきついと思うので、フラットバーのクロスバイクがおすすめです。あれだと少し前傾姿勢になるので、お尻や背中など、自転車を漕ぐために使える筋肉が増えて、少し疲れが分散されるんです。そうするとさらに長距離を走れるようになって、サイクリングが楽しくなってくると思います」 ――クロスバイクの利点のひとつは負荷の分散なんですね。 「一瞬で力を出しやすいのは腿の筋肉ですけど、長続きさせようとすると、そこだけではすぐに疲れてしまいます。腿の裏、お尻、背中などをうまく分散して使えると、長く漕ぎ続けられるようになります。それがスポーツ自転車の特徴であり、メリットですね」 ――日常の中で、少しの時間でもサイクリングを取り入れてみたいと思います。 「はい。もし自転車通勤ができる方であれば、挑戦してみるのもいいと思います。あとは都内であれば、日曜・祝日にパレスサイクリングといって、皇居の周辺を自転車で走れるようになっているので、そういったところを活用するのも一手です」 ――レンタサイクルの普及などで、自転車が身近になっていることもメリットになりそうですね。 「そうですね。私が経営しているサイクルショップでもレンタサイクルをやっていて、最近はすごく需要が増えてきていると感じます。サブスクリプションのような感覚で、レンタサイクルしか使わない方もいますし。ロードバイクに関してもレンタルしてみて、いいなと思ったら購入を検討するのがいいと思います。最初はなかなか自転車の世界に飛び込みにくいと思うので、ハードルを下げるためにも活用してみてください」
浅田顕(あさだ・あきら) 株式会社シクリズムジャポン代表取締役、ロードレースチーム「エキップアサダ」代表。1990年、全日本プロ選手権自転車競技大会で優勝。欧州プロチームと契約を結び、ロードレースの本場・フランスでも選手として活動した。1996年に現役を引退してからは監督・コーチ、チーム運営に注力しており、東京2020オリンピックではロードレース日本代表の監督を務めた。現在は世界でプロとして活躍する日本人を輩出するべく「ロード・トゥ・ラグニール(RTA)プロジェクト」を推進している。
取材・文/森本雄大 写真提供/浅田顕