なぜ蓮舫氏に「からかい」が集中するのか? “ものを言う女性”バッシングの背景にある「女性差別」の構造
「叩いてもいい相手」を攻撃する同調圧力
なぜ、過剰なまでのバッシングや敵意が蓮舫氏に向けられるのか。「からかいの政治学」などの論考で有名な社会学者の江原由美子教授は、日本社会における「同調圧力の強さ」を原因として指摘する。 「ネット社会では同調圧力がさらに強くなり、『叩いてもいい』と見なされた人を集中的に攻撃する傾向があります」(江原教授) 蓮舫氏の場合、ルーツが外国にあることや女性であることが、攻撃を招き寄せる原因のひとつとなっている。また、立憲民主党に対する不信感が、同党の支援を受ける蓮舫氏に向けられている一面もある。
「からかい」は反論を封じる
攻撃は、揶揄や侮辱などの「からかい」の形をとることもある。 ネット上では、2009年の民主党政権下での「事業仕分け」に関連して蓮舫氏が発した「2位じゃダメなんでしょうか」という言葉が、現在でも攻撃の口実に用いられている。 今回も、得票数が石丸伸二候補を下回り3位となったことと過去の発言を紐づけて、蓮舫氏を揶揄するような見出しが多くのメディアで用いられた。NHKも開票所ごとの得票率を比較した記事に「2位はドコなんですか?」と見出しを付け、批判を浴びた。 また、12日にはタレントのデーブ・スペクター氏が「蓮舫がテレビ司会者に転身→ヒステリーチャンネル」とXにジョークを投稿。 江原教授は、お笑いの「ネタ」のように特定のフレーズを執拗(しつよう)に用いることやジョークを発することは、「遊びの文脈」を作り出すと指摘する。実際には相手に対する攻撃が含まれていても、ネタやジョークの形をとれば、反論しようとした相手は「ユーモアがない」「野暮(やぼ)だ」と、さらに批判を受けることになる。 「デーブ氏の投稿などは性差別的な内容ですが、蓮舫氏が『差別だ』と反論すれば外野が『ムキになるな』と批判する。ジョークなどの『からかい』を受けたら、反論するほど分が悪くなってしまうのです」(江原教授)
ミソジニーとは「女性に対する処罰感情」
蓮舫氏が立候補した当初から、現職の小池百合子都知事と並べて「女傑対決」「女同士の『仁義なき戦い』」と報じるメディアもあった。 男性候補者たちについて「男同士の戦い」と表現することはないのだから、ことさらに「女性同士の戦い」を強調することも女性差別的だといえる。 さらに江原教授が指摘するのは、小池氏の存在が、「同じ女性である小池氏は批判されていないのだから、蓮舫氏に対するバッシングは女性差別が原因ではない」とする「言い訳」を与えてしまった問題だ。 オーストラリアの哲学者ケイト・マンは、一般的には「女性嫌悪」と訳される「ミソジニー」という言葉を、「男性社会に逆らう女性に対する処罰感情」と定義している。 「現状の都政を批判した蓮舫氏とは異なり、現職である小池氏は、今回は積極的に主張を行う必要がありませんでした。そのため、蓮舫氏だけが『現状に歯向かう生意気な女』などと見なされて、ミソジニーを向けられる対象になったのです」(江原教授)