すい臓がんで余命宣告をされたカップルYouTuberが荒らしコメントに対応した理由
罪もない相手になぜこんな風に糾弾できるのだろう?
今までがん患者とは思えないほど明るく、前向きに過ごしてきたみずきだったが、今回はさすがに怒っていた。 「なんで自分ががんだってのを、こんなに必死に証明しないといけないの?」 滅多に人に怒りを向けないみずきが、目に涙をためて怒っていた。 胸元のCVポートを見せることも、ウィッグを外して脱毛している姿を見せるのを決めたのもみずきだ。脱毛を隠すためにウィッグを被っているのに、なぜそれを何十万人、何百万人にわざわざ見せなければならないのか? この事態を引き起こした人は、これで満足だろうか? 一体どこに正義があり、罪もない相手をこんな風に糾弾できるのだろう。みぞおちが熱くなり、吐き気がする。骨を焼くような怒りをどこにもぶつける術もなく、積み重なった名前のない人々の悪意は、少しずつ、少しずつ僕の心を壊していく。 この動画の公開後、「動画内で言っていたように対応したいので、電話で相談できないでしょうか?」と先方から連絡が入った。別に来てもらっても構わないのだが、正直、めんどくさかった。だが言った以上、断るわけにもいかない。電話で相談した結果、先にこちらに個人情報(免許証と住民票、そこに住んでいることが確認できる直近の郵便物)を送ってもらい、その上でみずきの診断書を見せることになった。 情報の価値という意味で言えば登録者約20万人の僕たちの住所と、約200万人の超有名配信者の住所では雲泥の差がある。そこまでするなら信用しようという話になり、診断書、ほかいろいろな書類を見せることにした。 後日、先方の配信で、僕らの話が本当であったと証明してくれていた。だけど、気持ちはこれっぽっちも晴れなかった。 そして、これだけやってもアンチは減らない。むしろ今までは無視できる規模のものだったが、今回の配信をきっかけに、あれこれ個人情報を特定しようという輩が這い出てきた。動画を編集しているとき、企画を考えているとき、ご飯を作っているとき、風呂に入っているとき、名前も顔も見えない人々の声が聞こえるようになる。 論理はメチャクチャの全く筋の通っていない意見ばかりだが、反論する場所がない。いちいち反応していては発信内容が暗いものばかりになってしまうし、ファンはそんなものを望んでいないだろう。 動画を編集していても「この発言はまた叩かれるかもしれない」といった部分ばかりを気にしてしまいみぞおちが熱くなる。 夜眠れなくなり、 「こんな風な動画を出したら、ぐうの音も出ないだろう」 「こんな風にブログで、アンチの人間性の低さを書き殴ってやろうか」 「アンチを装ってコミュニティに入り込み、何人か特定して晒してやろう」 そんな風に実行するはずもない過激なアンチ対策を考えているうちに、気づくと空が白んできている。 みずきのがん発覚以降、ギリギリのところで気持ちを保ってきた。 強風にさらされる砂の城のように、ゆっくりと心が崩れていくのを、明け方の冷たい空気の中、他人事のように感じていた。 そして僕たちは、動画投稿をしばらく休むことにした。 日本一周中に彼女が余命宣告されました。~すい臓がんステージ4 カップルYouTuber 愛の闘病記~ 定価 1,650円(税込) 双葉社
サニージャーニーこうへい,みずき