「これはただの指導」企業で自覚のないパワハラが生まれてしまうワケ
パワハラと指導の境界線を知ろう
最後に、“逆パワハラ”についてもお話したいと思います。上司が部下に指導すると「それパワハラじゃないですか?」と部下から言われてしまう。このような状況は“逆パワハラ”と呼ばれ、深刻な問題にもなっています。 “逆パワハラ”というものは、パワハラと指導の境界線を、指導者側がきちんと理解できていないときに起こりえます。キーワードは「それで本当に改善できますか?」です。例えば、部下が計算ミスをしてしまった。「ここは計算ミスしているから、ここの見直しが必要だ」と指導することと、「お前はいつも注意不足だ。だから計算ミスをする」と責めることは、大きく意味が異なりますよね。前者は計算ミスという部下の行為を指導していますが、後者は部下の性格を非難しています。性格を非難してミスがなくなるでしょうか?人間は機械ではなく、体調や感情もあります。単に精神力や根性でミスがなくなるものではありません。 もし部下の注意力が散漫だと思うならば「5分間区切りで作業を分けて、集中できるようにしてみよう」など改善の具体的な提案をして、どうすればいいのかを一緒に追求しましょう。「その指導をした結果、次から行動が改善できるのか」という観点がとても大切です。もし改善できるのであれば、それは正しい指導です。しかし、改善のためのヒントも与えずに、一方的に怒りをぶつけたり、性格を非難したりするだけならそれはパワハラです。指導者として、この境界線をきちんと認識しておくことが重要です。あなたが「良い指導者でありたい」と意識することで、部下のモチベーションも会社の業績もきっと変わるはずです。 ========== 嵩原安三郎(たけはら やすさぶろう) 弁護士(フォーゲル綜合法律事務所代表)。沖縄県出身。京都大学法学部卒業。2000年大阪弁護士会登録。2007年、フォーゲル総合法律事務所を大阪市北区に設立。労働事件(使用者側、労働者側問わない)を中心に、企業法務、離婚事件、刑事事件など幅広く取り扱う。現在、多くのテレビ番組にコメンテーター、解説者として出演中。