【独自取材】初めて“カド番”に追い込まれた藤井八冠、最終局面・叡王戦を永瀬拓矢九段が分析
藤井八冠自身も、今年5月27日に行われた名人防衛会見で、「この2ヶ月くらいは、ちょっとミスが少なからず出てしまっている」「あまり要因というのははっきりとはわからないけど、少し読みの精度が下がってしまっているところがあって、それがミスにつながったというところが、いくつかあったかなという風に思っています」と話している。 一体なぜ、藤井八冠の圧倒的な終盤力は影を潜めてしまっているのか。永瀬九段は、藤井八冠の“現状”を軸に分析する。
「藤井さんは常に変化を求めているところがあるというか、常に現状に満足することなく、今まで変化して成長してきたと思う。それがたまたま、今の時期にいろんなことが交差してしまって、配線が絡まっている感じ。そんな現況を、処理しきれていないのかなと思う。修正するのか、進化するのか、成長させるのか…」 叡王戦最終局は、藤井八冠がさらに進化することが鍵となりそうだ。
スペシャリストの藤井VSゼネラリストの伊藤
二人のことをよく知る永瀬九段に、藤井八冠と伊藤七段の将棋のタイプについて語ってもらった。 永瀬九段曰く、「藤井さんが将棋でいうとスペシャリスト型で、伊藤さんがゼネラリスト型・幅広く知識を持ったタイプ」だという。 “スペシャリスト”とは、文字通り、ある特定の分野を専門的に修めた人材のこと。“ゼネラリスト”とは、豊富な知識と多角的な視点を持った人材のことを指している。 どちらもビジネス用語として使われる言葉で、スペシャリストは「狭く深く」、ゼネラリストは「広く浅く」と対極にあるように感じる両者だが、その意図とは。
「藤井さんは角換わりという戦型が得意なんですね、これが攻撃的な戦型で。伊藤さんはゼネラリストと思っているんですけど、それは幅広く知識を持っている盾みたいな感じですかね。藤井さんが最強の矛をもっていて、伊藤さんが最強の盾を持っている印象かもしれないです」と語る。
「二人のタイプは全く違う。ただスペシャリスト型って結構少なくて、藤井さんは結果的にスペシャリスト型になったと思うけど、それが攻撃的な将棋を指して今まで100%積み重ねて、攻撃的であるにも関わらず、精度も抜群という状態だったのかな。伊藤さんは100%を目指すというタイプではないかなと思っているのと、藤井さんとは全くタイプが違くて、幅広く盾を持つことで簡単には負けないぞという印象」と語った。 最強の矛と最強の盾の戦い。 どちらに軍配が上がるのか? しかし、現状の藤井八冠の“矛”について、永瀬九段は… 「本来藤井さんの矛というのは最強で、どんな盾をも貫いてきたわけなんですけど、それがなかなか最強ではないという状態ですね」と話した。