【独自取材】初めて“カド番”に追い込まれた藤井八冠、最終局面・叡王戦を永瀬拓矢九段が分析
永瀬拓矢九段が語る、藤井八冠と伊藤七段
話を聞いたのは、永瀬拓矢九段。永瀬九段といえば、藤井聡太さんの八冠・タイトル独占を阻止しようと迎え撃った「王座戦」が記憶に新しい。 藤井八冠と永瀬九段は、2017年、藤井八冠がプロになったばかりの頃から、VS(一対一で行う将棋の研究)を行う仲。インターネット番組の企画で対戦したことをきっかけに、永瀬九段が藤井八冠にメールを送りVSに誘ったというのは有名な話だが、伊藤七段ともプロになる前の三段の頃からVSや研究会(4人など複数人で行う将棋の研究)を行う仲だという。 永瀬拓矢九段は、藤井八冠と伊藤七段の二人にとっては“研究パートナー”なのだ。
なぜ、自分よりも年齢の若い棋士に教えを請うのか。永瀬拓矢九段は、「既存の考え方じゃなくて、やっぱり今後そういう将棋をつくっていく、新しい考え方を知りたいというか」と答えた。続けて、「今後そういうもの(新しい将棋)をつくるのは、今トップで活躍している人ではなくて、今後活躍するであろう人たちであると思っているので、有意義なことなのかなと思います」と理由を明かした。
王座戦の結果について尋ねると、「個人的には棋力(将棋の力)はあまり変わらないと思ったので、結果としてそうなった(負けた)のは残念だなと思いましたね」と話し、「ただ藤井さんの終盤力というのが、本当にずば抜けているわけなので、そこをどうにかしないといけないと思いましたね」と対局を振り返った。 圧倒的な終盤力で、これまで何度も窮地を乗り越えてきた藤井八冠。しかし、永瀬九段曰く、「今回の叡王戦では、その終盤力が影を潜めてしまっている」という。
100点じゃない指し手
今期の叡王戦、なぜ2勝2敗のタイ、フルセットとなったのか。その理由について、永瀬九段は、「藤井さんは、100点をずっと指し続けるような将棋なんですね。なので相手は関係なくて、自分で“100点を指し続けること”で勝つ将棋なんですけど、今回それが100点じゃなくて、それが70点だったり、75点だったり、その最も良い手を指せていないのが、(藤井八冠が)負けている要因なのかなと思っています」と語る。 「今までの100%の手を指し続ける藤井さんであれば、それを指されたのではないかなと思ったが、ただそれを逃してしまった。逃すと将棋は相手にチャンスがわたってしまうので、それを伊藤さんがつかみとったという状況だと思う」と分析した。