ルポ・若者たちの都知事選2014 最終回 現場に寄り添う研究者
だからといって、選挙戦を軽視しているわけでは全くない。選挙戦は、対応すべき社会的課題を論点として示し、必要な政策を提示する大切な場だ。また、世界最大規模ともいわれる東京都知事選を、様々なバックグラウンドをもった市民が参加する宇都宮選対で戦うことに、新しい選挙の可能性を感じている。
現場に寄り添った視点で政策論議を
渡辺が常に重視するのが「現場の声」だ。選挙戦でも、いかに現場に寄り添った政策を打ち出し、人々が実感を持って受け止められる言葉で伝えられるかが重要だと考えている。「正しい観念やイデオロギーがあってはじめて行動するわけではない。現場にいき、その人たちがどういう状況におかれているのかを踏まえたうえで、なにをすべきか考えるべきだ。それを抜きにして議論していてもあまり意味はないのではないか」。 NPO法人のスタッフとして福島からの避難者と接してきた渡辺だが、都知事選が「脱原発」のワンイシューで語られるのには違和感があったという。「脱原発」という言葉ばかりが先行してしまい、原発の影響で避難生活をしている人たちへの保障が十分できていないという現実が軽視されているのではないかーーー「現場に寄り添い、相談をうけ、一人ひとりの具体的な問題に向き合うことが重要」と話す渡辺が望むのは、あくまで現場に寄り添った視点での政策論議だ。 選挙戦がおわり、渡辺はこう語った。「今回の都知事選で十分に争点化できなかった労働や貧困といった問題を、現場の活動を通して社会に示していきたい」。博士課程に進む渡辺は、これからも現場と研究という「二足のわらじ」で活動を続けていく。 (河野嘉誠・文中敬称略)