イーストウッド作品が映画会社から捨てられた訳 94歳巨匠の最後の作品をまるでバックアップせず
ハリウッドのアワードシーズンも、いよいよ本番。賞狙いの作品もだいたい出揃う中、驚くほど“放置”されている映画がある。クリント・イーストウッドの新作『Juror #2』だ。 【画像を見る】製作予算もしっかりかけた『Juror #2』のポスター イーストウッドにとって記念すべき40本目の監督作。94歳という年齢を考えれば、おそらく最後の映画になるかと思われる。出演者はニコラス・ホルト、トニー・コレット、J・K・シモンズなど、さすがの実力派揃い。 小さな役で出演するキーファー・サザーランドは、自分からイーストウッドにお願いして出してもらったのだという。世界プレミアは10月末のロサンゼルスでのAFIフェスト、北米公開日は11月1日。イーストウッドの『J・エドガー』『アメリカン・スナイパー』『リチャード・ジュエル』もAFIフェストでプレミアを行っているし、賞レースに向けた典型的パターンに見えた。
■商業面においても放棄? と思いきや、イーストウッドと長年組んできたワーナー・ブラザースは、どうやらこの映画を最初から放棄したようなのだ。賞レースに関してだけではなく、商業面においてもである。 北米公開は全米で50スクリーン以下の限定規模で、宣伝広告はほとんどなし。タイトルをまるで聞かないので、一般人はこんな映画があることも知らない。 しかも、メジャースタジオにしては異例なことに、ワーナーは、この作品に関しては興行成績の発表もしないという。さらに、早々と12月にはワーナー・メディア系列の配信プラットホームMaxで配信されることになった。そうなると、劇場まで見にいくモチベーションはますます下がる。
また、この時期は、主要な賞の投票者にできるだけ映画を見てもらうべく、キャストや監督が来る試写を組んだり、しつこいくらいキャンペーン広告やメールが来たりするものだが、それも一切ない。同じワーナーの『デューン 砂の惑星PART2』への力の入れ方と完全に対照的だ。 こんな扱いを受けるということは質が伴わないのかというと、そうではないところが謎なのである。Rottentomatoes.comでの得点は、批評家が93%、一般観客は91%と、上々なのだ。筆者も見たが、映画は決して悪くなかった。