人類はなぜ”ガン”から逃れることができないのか…非情なる「適者生存」のプロセスに従うしかない「進化」の過程
進化は最適解を選ぶわけではない
ダーウィン自身ではなく『種の起源』発表の5年後にイギリス人哲学者・社会学者のハーバート・スペンサーが提唱した、進化を「適者生存」のプロセスとして捉える考え方は、進化とは無関係の適正基準が存在し、それに進化過程が追従することを示唆する。実際のところ、適者とは最も効果的に生殖をする生物のことだ。 ある意味、適者生存という用語は重言だ。誰が生存する?適者だ。誰が適者?生存する者だ。 生き残って子孫を残す限り、“誰”が適者なのか、大きいのか小さいのか、強いのか弱いのか、知性が高いのか低いのかなどという問題は、進化にとってはどうでもいいことなのだ。 形質は適応的だ―つねにあとから気づくことで、決して前もって知りえない。だからといって、それが環境に対する最善の順応である保証もない。進化は最適解を選ばない。 たとえば、人類はなぜいまだに癌を患うのだろうと考えたことがある人は多いに違いない。この「万病の王」はもうとっくに克服されていてもいいのではないか、人類は癌にならないように進化できたはずでは、と。 残念ながら、進化は人間の苦しみに何の興味もない。進化にとっての関心事はただ一つ、ある特質が遺伝子の継承の成功にどう作用するか、という点のみだ。 ほとんどの人は、癌を発症する前に遺伝子を子孫に伝えてきた。そもそも癌を発症しない体のほうがいい、などという点に進化は興味を示さない。生存できればそれでよし、だ。
ハンノ・ザウアー、長谷川 圭
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