『Nothing Ear(Open)』『CMF Phone 1』を見て感じる、Nothingの「コラボレーター」としての姿
英・ロンドンのテックブランド・Nothingの新製品発表会が9月26日に開催された。今回発表されたのは、オープンイヤー型のイヤホン『Nothing Ear(Open)』と、同社のサブブランドにあたるCMF by Nothingのスマートフォン『CMF Phone 1』だ。 【画像】令和に登場した「着せ替えスマホ」? 『CMF Phone 1』の背面パネル ■オープンイヤー型だが高い音質を実現した『Nothing Ear(Open)』 Nothingは立ち上げ以来、ワイヤレスイヤホンの開発に力を入れてきた。ブランドのプロダクト第1号として『ear(1)』を発売し、その後Nothingとしては『ear(a)』『ear(stick)』をリリース。CMF by Nothingとしても『BUDS』『BUDS PRO』『BUDS PRO 2』『NECKBAND PRO』をリリースしてきた。 『Nothing Ear(Open)』はそんなNothingのオーディオラインとして初めてのオープンイヤー型イヤホンだ。本体はイヤホンのスピーカー部分と、耳に掛けるためのシリコンパーツで構成されている。 「耳に掛けるタイプのイヤホン」ということであれば、これまでも数多くの製品が登場してきたが、「Nothing Ear(Open)」はオープンイヤータイプであるにも関わらず非常に高い音質を実現している点が特徴的だ。 実際に試聴した感想としては、耳の穴に入れるのではなく、「耳の前で鳴らす」といったイメージだが、カナル型のイヤホンのような充実した音が耳に届く。むしろ耳の穴とイヤホンのスピーカーの間に空間が存在することで空間的な鳴りになっているのではないか、と感じるほどだった。 音質の秘密はドライバーの構造にあるという。一般的には直線的な構造となっているドライバーユニットだが、本機では階段状にした「段差ドライバー」を採用することで、音質を損なうことなく、デザインに落とし込むことができた。 さらにスピーカーの背面から逆位相の音を出すことで、軽めのノイズキャンセリングのような状態でリスニングができることも特徴のひとつだ。もちろん耳の穴を塞いでいるわけではないので、外部の音を完全にカットはしない。音楽の邪魔になるような小さな雑音を取り除きながら、話しかけてくる人の声や近づいてくる自動車の走行音などは聞き取れる。これによってランニングやサイクリング中でも安心して装着していられる。 本製品は耳の穴の入口付近、耳の付け根、耳裏、の3点を支点にして装着するのだが、装着感も悪くない。重心がきれいに分散しており、装着時にどこか一箇所だけに負担がかかるということがないので、長時間の装着でも問題なさそうだ。 ケースの厚みは19mmと非常に薄い。ケースの内側がマグネットになっており、本体が簡単にハマるようになっている。そして驚くべきはその軽さ。ドライバーユニットを含め徹底した軽量化を行い、シリコンパーツと合わせて、片方につきわずか8.1gという軽さになっている。 AIを活用した「クリアボイステクノロジー」を搭載しており、通話時に、ノイズや反響を抑えた鮮明な音声を届けることができる点も魅力的だ。またAIといえば、『ear(a)』に引き続き、ChatGPTとの連携にも対応している。音声コントロールを通じて瞬時にChatGPTへ接続できるほか、ChatGPTの「高度なボイスモード(Advanced Voice Mode)」と連携すれば、ひたすらAIと会話を続けることだってできてしまう。 ほかにもゲームプレイ時にうれしい低遅延モードや、2つのデバイスに同時に接続できる「デュアル接続」といった機能も備えている。バッテリーの持ちは、イヤホン単体で8時間、ケースと合わせて最大30時間の連続再生が可能だ。 価格は24,800円で、10月1日に発売されたばかりの新製品なので、興味のある方はぜひチェックしてみてほしい。 ■安い・かわいい・カスタマイズが楽しい新顔『CMF Phone 1』 同日に発表された『CMF Phone 1』は、NothingのサブブランドであるCMF by Nothingの第一号スマートフォンだ。イギリスやアメリカでは7月に発売が開始されていたが、日本でも10月1日より発売開始となった。 本機の魅力は「モジュラー式デザイン」を取り入れた点にある。工業製品を思わせる無骨な背面パネルは、ステンレス製のネジで留められており、ユーザーが自由に取り外しできるようになっている。パネル自体はプラスチックだが、ざらついた手触りのおかげか高級感を感じる質感に仕上がっている。 気分が変わったり、万が一割れてしまったとしても、コストをかけずに交換できるし、少しずつパーツを交換、修理しながら長い期間使うことだってできるだろう。カラーリングも、ブラック、ライトグリーン、オレンジ、ブルーと気が利いたセレクトだ。 さらに背面パネルに空いた「アクセサリポイント」には、折りたたみスタンドやカードホルダー、ストラップなどを取り付けることもできる。サードパーティー製品を取り付けずに、調和の取れたデザインを保てるのはNothingファンにとってうれしいポイントだろう。 CPUには「MediaTek Dimensity 7300 5G」を採用。メモリは8GBだが、RAMブースターによって最大16GB相当まで利用できる。 ディスプレイには、フルHD画質、6.67インチのスーパーAMOLEDディスプレイを搭載。120Hzのリフレッシュレート、240Hzのタッチサンプリングレートによってキビキビとした動作を実現し、ゲームプレイにも問題無い。また2000ニトのピーク輝度やHDR10+にも対応しており、サブブランドと言いつつかなり力の入った仕様となっている。 カメラにはソニー製の50MPメインカメラと16MPフロントカメラを搭載。メインカメラはF1.8相当のシングルカメラだ。「AIビビッドモード」を備えた画像処理エンジン「TrueLens Engine 2.0」は、肉眼で見たときに近い色味や光を再現するということだ。 バッテリーはNothingのPhoneシリーズ同様、5000mAhと大容量だが、唯一「おサイフケータイ」非対応という点のみ残念なところか。 価格は8GBメモリ/256G ストレージで4万4800円と、ミドルレンジスマホの価格感。さらに、IIJmioと販売パートナーシップを提携しており、発売記念BOXが販売される。8GB+128GBモデルに『CMF Buds』がセットになって、3万9800円で購入可能と、かなりお得だ。さらに他社キャリアからの乗り換えだと3万4800円で購入できる。 ■Nothingは「コラボレーター」としての道を進むのか? 今回の新モデルを見て、感じたことがひとつある。それは、『CMF Phone 1』の背面パネルやアクセサリポイントへ取り付ける各種アクセサリー類は、ただの着せ替えアイテムというよりも、たとえば3Dプリンターなどを使った自作パーツなどの使用を期待しているのではないか、ということだ。 というのも、筆者はかねてよりNothingの「コラボレーター」としての姿に注目してきた。同社は『Ear(1)』のローンチ以前から、デザインチームにシンセサイザーブランドのTeenage Engineeringを招き、そのDNAを取り入れながら開発を進めてきた。 さらに『Phone (2a) 』では「Community Edition」として、スマートフォンとしては初めて、ユーザーと共にプロダクトデザインからマーケティングまでを共創し、この取り組み自体を、ある種のブランディングとしても機能させてきた。 ここから少しだけ想像力を飛躍させてみると、Nothing本家とCMF by Nothingの違いについても違った視点が浮かび上がる。 Nothingブランドは公式が手綱を握った状態で、さまざまなコラボレーションをおこなうことで次世代の「ブランド」を作りあげようとしており、一方でサブブランドであるCMF by Nothingでは、非公式での、自由なコラボレーションを促す商品開発をおこなっていこうとしているのではないか。 もちろん、現状CMF by Nothingはカメラ、レンズメーカーのSIGMAのように製品のCADデータを公開しているわけではなく、そういった旨のアナウンスをしているわけではない。今のところ筆者の憶測の域を出ないことも付け加えておきたい。 しかし、NothingがAppleへのある種のカウンターとして登場したことも考慮すると、度々不満の声が上がる、ユーザーによるパーツのカスタマイズやバッテリー交換などを頑なに拒否するApple製品の強固な製品管理姿勢を継承するとは考えづらい。次世代のガジェットには、より柔軟に、より相互作用的であってほしいものだ。
赤井大祐