「笑点だから」と許されている部分はある──変化を続けて55年、長寿番組の裏側
微妙な変化を繰り返す一方で、番組の根幹は貫かれている。テーマ曲とともに番組が始まり、最初にスタッフのクレジットが流れる。「大喜利」では音楽とともにメンバーが登場し、一人ひとりが挨拶をする。タレントの紹介をテロップだけで済ませる昨今のテレビ界では、考えられない構成だ。 「登場から挨拶終了まで3分半も使ってしまい、大喜利で盛り上がっている部分をカットせざるを得なくなる時もある。もったいないので、今のまま継続するか議題に何度か上がりました。でも、毎分視聴率は番組始まる前のCMから、基本的に右肩上がりなんです。見ている方の気持ちがだんだん盛り上がってくるのかもしれません。相撲の仕切りのような“形式美”ですね」(福田氏) 挨拶には、番組の指針も込められている。 「大喜利はあくまで問題に対するリアクションですが、挨拶は自分の生活や世の中のどこを切り取って、どんな視点で表現するか。噺家としての個性を出せる大事な時間です。個の集まりで初めて一つの番組ができる。個々が大きくなれば、番組も飛躍するはずなんです」(飯田氏)
世代交代の準備をしなきゃいけないとは思っている
55年の歴史を振り返ると、ルーティンを崩した時もあった。1990年代、日本テレビは「19時54分」放送開始のフライングスタートをいち早く取り入れたり、スタッフのクレジットを猛スピードで流したりするなど、視聴率上昇のために細かい作戦を導入していた。 1998年、『笑点』もその波にさらわれ、1問目と2問目のあいだにCMを入れたり、座布団運びが1カ月間、山田隆夫から林家たい平や春風亭昇太などの若手落語家に代わったりした時期もあった。しかし、メンバーから反対意見が飛び出し、いずれも定着しなかった。 最近はテロップを大量に使い、視聴者に丁寧にわかりやすく説明する番組が多くなったが、『笑点』は必要最小限にとどめている。 「この5年で、テロップをもっと使うべきか定期的に議題に上がっています。去年、アンジャッシュさんのすれ違いコントには、『医師の先生と思ってる人』『学校の先生と思ってる人』と入れました。途中から見た人は、混乱しますからね。大喜利でもお題の字幕がずっと出ていれば、わかりやすい。実際、BS日テレの『笑点 特大号』ではそうしています。でも、テロップを嫌がる視聴者も結構いる。入れれば見やすくなるけど、番組として失うものがあるんじゃないか。一方で、今までの当たり前が通用しない時代になっている。何度話し合っても、答えは出ません」(福田氏) 今回の55周年のタイミングでは、新たな「引き出し」を増やす試みも行っている。「55」にちなみ、元メジャーリーガーの松井秀喜氏をゲストに大喜利を展開したのだ。コロナ禍で来日できなかった松井氏はVTRでの参加という体で、出題者を務めた。 「昨年、コロナ禍でリモート収録した経験が生きました。このように画面を使って映像を見せながらの出題というパターンは、出演者だけでなく視聴者から見てもわかりやすいのではないかと考えています」(福田氏)