「笑点だから」と許されている部分はある──変化を続けて55年、長寿番組の裏側
『笑点』が55周年を迎えた。近年、動画配信サービスの発達や、視聴率の基準が世帯からコアターゲット(13~49歳)重視に変わるなど、テレビを取り巻く状況は大きく変わりつつある。コンプライアンス順守の風潮も、番組制作の仕方に影響を及ぼしている。安定飛行を続けるように見える希代の長寿番組は、社会の変化にどう対峙していくのか。担当プロデューサーに聞いた。(文:岡野誠/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
今の時代、何かすると、ネガティブに拾われてしまう
昨今の『笑点』で目にしなくなったものがある。林家たい平のオネエキャラ、山田隆夫のダイビング突っ込み……。視聴者の抗議や世の中の潮流に敏感になっているのだろうか。 「たい平さんのオネエネタは、LGBTの方々に配慮すべきと判断して3年ほど前にやめました」(日本テレビ福田一寛プロデューサー) 座布団運びの山田はたい平にイジられると、舞台袖から猛突進して体当たりしていたが、新型コロナウイルスの蔓延前から、その光景は見られなくなっていた。 「突き飛ばして、指をケガしたんですよね。単なる自爆です(笑)」(制作会社「ユニオン映画」の飯田達哉プロデューサー)
「木久扇さんが突き飛ばされた時、すごく痛がって『あれはないよ……』とつぶやいたこともありました。山田さんは手加減できない人なんです(笑)。ご時世的にやり過ぎるのも良くないという考えもありました。しかも、コロナで相手に触れられなくなった。いろんなことが積み重なっての結果です」(福田氏) 『大喜利』で司会の春風亭昇太が山田を紹介する時、〈落ちぶれた赤レンジャー〉〈『笑点』のゴールデンウィークポイント〉などとイジり過ぎると、視聴者からクレームが入ることがあるという。
「『山田くんイジメだ』というメールがあるんですね。あくまで演出の一つなのですが、そういう風に捉えられる方もいらっしゃるのは、昔と違う部分かも知れません。だから、たまには山田さんを〈紅葉のように赤く美しい〉と昇太師匠に持ち上げてもらうなど微妙なあんばいを考えています」(福田氏) コンプライアンス順守という風潮の影響もあるだろう。三波伸介司会時代の1982年4月から制作に関わっている飯田氏はこう明かす。 「昔と比べて、社会の寛容度が低くなっていると、5~6年前から感じるようになりました。SNSの発達が大きいでしょうね。世の中にはいろんな方がいらっしゃるから、批判は仕方ありません。昔は電話で、お酒を召し上がって気分が良くなった方が『急に俺のことを言われた。ふざけんな』と抗議してくることもありました。今は字面だけなので、相手の状態がわからない。そこが難しいですね」